生産者の日収は1ドル未満...困窮するカカオ農家救済に日本企業がプロジェクト発足
途上国の困窮するカカオ生産者を救おうと、日本企業が支援に乗りだしている。貧困を理由にカカオ農家が減少し、チョコレートが生産できなくなる事態を防ぐためだ。カカオを輸入販売する立花商店(大阪市中央区)は、日本企業がガーナの農村を支援できるプロジェクトを立ち上げた。兼松はインドネシアで森林保全とカカオ農家の生活向上を両立させる事業を推進する。
立花商店は2020年秋、ガーナの農園からカカオの収穫や解体などの作業を動画配信した。同社の生田渉取締役は「現地の実情を広く知ってもらうため」と狙いを語る。
カカオ産地として有名なガーナでも生産者1人の日収は1ドル未満とされ、持続可能な開発目標(SDGs)の貧困の定義である1・25ドル未満を大幅に下回る。経済発展によって他に魅力的な職場ができると、カカオ栽培をやめる農家が増える。世界的な人口増加によるカカオの供給不足も心配され、欧米のチョコレートメーカーは産地の貧困問題を啓発している。産地とともに自分たちのビジネスを守るためだ。
一方、「日本は産地から遠く、問題を実感しにくい」(生田取締役)のが実情だ。そこで現地に駐在員がいる立花商店は日本のチョコレート関連企業に情報を発信し、啓発に努めている。
具体的な支援策の提案も始めた。ガーナの農村に井戸や学校、橋を整備するプロジェクトを企画し、リスト化して企業から支援金を募っている。社内決裁が通りやすい小規模案件ばかりにすることで、中堅・中小企業も協力しやすくした。また「現地の今のニーズに合った貢献であり、日本企業の支援を最大化できる」と強調する。現地に精通した同社だから、必要とされる支援を提供できる。
兼松はインドネシアのカカオ農家を支援する。11年、同国ゴロンタロ州政府と覚書を結び、森林保全による温暖化対策事業として始めた。当時、現地ではトウモロコシ農園の開発のために森林が伐採されていた。そこで現地財閥グループと協力し、トウモロコシに代わる収入手段として高級カカオの栽培を提案してきた。
事業は日本政府からも支援を受け、保護した森林による二酸化炭素(CO2)吸収の成果を取引可能なクレジットにする検討が進められている。クレジットを購入した国や企業は自身の排出削減量に加えられる。兼松はクレジット販売で得た利益で森林保全と農家の支援ができるようになり、継続的に環境と社会に貢献できるビジネスになる。
森林保全と経済支援を両立した事業は「REDDプラス」と呼ばれる。同社は同様の事業をインドネシアの2地域に加え、ギニアでも始めた。同社鉄鋼・素材・プラント統括室の矢崎慎介氏は「今は先行投資だが、新しい市場に挑戦している」と話す。脱炭素への動きが具体化してくると、クレジットの需要が高まるからだ。
カカオに関わりのない企業でもビジネスモデル次第でチョコレート産業の救世主となれる。