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阪神淡路大震災が教訓。落橋防止装置を開発した明石市のゴム製防舷材メーカー

阪神淡路大震災が教訓。落橋防止装置を開発した明石市のゴム製防舷材メーカー

神戸市須磨区の名谷駅前橋に設けた緩衝チェーン(シバタ工業提供)

ゴム活用で衝撃に対応

建築物やライフラインなどの被害総額が約10兆円に上ったとされる阪神・淡路大震災。シバタ工業(兵庫県明石市、柴田充喜社長、078・946・1515)は、船舶が港に接岸する際に使うゴム製防舷材などを手がける。同社も神戸支店が入居していた神戸市中央区のビルが倒壊する被害を受けた。震災では高速道路の落橋や路面に大きな段差が発生し、救助や復旧の輸送に支障をきたすなど課題と教訓を残した。そこで独自開発したのが落橋防止装置だ。

【船係留技術応用】

落橋防止装置は橋にかかる地震による振動エネルギーをゴムの緩衝性によって衝撃を和らげる。橋桁の落下を防ぐ連結材の「緩衝チェーン」と、橋桁の横ずれを防止する「緩衝ピン」の2種類を展開する。緩衝チェーンはゴムの中にチェーンを埋設した構造で、地震による衝撃を瞬時に緩和する。

緩衝ピンは金属製の棒にゴムとナイロン製の高強度繊維を配合した独自開発の緩衝材を巻き付けた製品。人や車が渡る橋の部分と橋の柱との間にあり橋の構造の変形を吸収する「支承」を補強する役割を果たす。

技術開発部の浮島徹研究開発課長は阪神・淡路大震災が発生した1995年から同装置の技術開発などに携わってきた。落橋防止技術を確立する経緯について「船舶などを係留する自社製品のゴム製チェーンで培った技術を応用することで、地震発生時に橋梁へ生じる衝撃荷重にも対応できるのではないかと考えた」(浮島課長)と振り返る。

震災翌年の96年に緩衝チェーンを、97年に緩衝ピンを製品化し、市場投入した。現在では全国各地の高速道路や、一般道路の道路橋への採用実績がある。2種類の製品を合わせて累計で約8000橋に導入されている。

神戸市西区の上明石橋に設置した緩衝ピン(シバタ工業提供)

【「住まい」に近く】

世界で発生したマグニチュード6以上の地震のうち、約2割が周辺地域で発生しているとのデータも存在する地震大国・日本。政府が掲げる防災・減災、国土強靱(きょうじん)化の動きが加速する中で、道路における震災対策も進められている。

国土交通省によると、災害発生時に特に重要な緊急輸送道路上の橋について、今後30年間で震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の地域では2021年度中に、全国では26年度までに耐震補強対策を完了させる目標を定めている。

一方、今後30年以内に発生する可能性が70%以上とも評される南海トラフ地震の発生想定地域も含む西日本の高速道路では、20年3月時点の耐震補強進捗(しんちょく)率が全国平均の75%を下回る60%台にとどまる。

こうした状況を踏まえてシバタ工業は今後、西日本を重点地域として営業活動を進める。さらに耐震関連のほか、「暴風雨による屋根破損への応急対応を可能とする製品など、より『人の住まい』に近い防災製品群も拡販していきたい」(同)と意気込む。今後も防災・減災事業の業容拡大に力を注ぐ。(神戸・福原潤)

日刊工業新聞2020年2月8日

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