コロナワクチン接種迫る!自治体の供給体制は万全か?訓練で見えた課題
新型コロナウイルス感染症の世界での感染者数が1億人を超えた。ワクチン接種も世界で始まっており、国内では3月中旬にも高齢者を対象に接種が開始される方針だ。間近に迫る接種開始に向け、厚生労働省を中心に政府と自治体の連携が進む。高齢者の重症化予防や逼迫(ひっぱく)する医療体制の緩和のためにも迅速な接種が求められるが、ワクチンの管理や医療スタッフの確保など課題も多い。(安川結野、石川雅基)
知見を全国に提供 1億5700万人分確保―基盤固め/輸送と保管方法、課題
厚労省と川崎市は27日、新型コロナワクチンが実用化された場合に備えたワクチン接種会場運営訓練を川崎市立看護短期大学(川崎市幸区)で行った。訓練には医師や看護師、川崎市役所職員ら約60人が参加し、被接種者の受け付けから接種前の診察、接種、観察を実施。バスケットボールのコート程度の広さの体育館に、簡易的な仕切りやパイプいすなどを活用して接種会場を準備した。どの自治体でも応用可能な設備で、接種の流れを検証する狙いだ。川崎市の訓練で得られた知見は、2月上旬にも発表し、全国の自治体に向けて情報提供する。
訓練を視察した山本博司厚労副大臣は「訓練の様子の動画や接種の手引書などを作成し、情報共有する。地域に応じた接種体制の構築に協力したい」と意欲を見せた。
訓練で見えた課題もある。接種前の診察では、被接種者がアレルギーや持病について念入りに質問し、接種まで予想以上に時間がかかる場面も見られた。川崎市の福田紀彦市長は「より円滑な接種を行うため改善策を考えたい。また、こうした情報を共有して自治体に役立ててもらいたい」と話した。また、「国が示す接種スケジュールなどの情報に不確実性がある中で自治体は準備を進めるが、接種にかかる医療従事者の不足の問題などを抱えている。スピード感も重要だが、先走らず、自治体の実情に合った情報発信をお願いしたい」と強調した。
国内製造販売承認迅速に 輸送と保管方法課題
政府もワクチンの確保に向けた体制を整備する。厚労省は20日、米ファイザーと独バイオ企業ビオンテックと、新型コロナワクチンについて年内に1億4400万回分(7200万人分)の供給を受けることで正式契約を結んだ。田村憲久厚労相は「円滑な供給に向けて各省の連携を進める」と強調し、承認後は早期の供給と接種が行えるよう準備する考えを示した。
政府は他にも、米モデルナや英アストラゼネカからワクチンの供給を受ける見込みだ。現在までに合計1億5700万人分のワクチンを確保しており国民全員への接種に向けて基盤を固める。
ファイザーとビオンテックのワクチンは厚労省へ製造販売承認申請を2020年12月に実施。ファイザーは2月中にも国内の第1/2相臨床試験の結果を提出するとしており厚労省は承認に向け迅速に審査する構えだ。
海外の承認実績を元に国内で使用を認める「特例承認」の枠組みで審査を進める可能性もある。従来より感染力が強い変異種に対してもワクチンによる抗体がウイルスを中和したという研究結果が出ており、早期の実用化に期待がかかる。
世界で実用化が進んだワクチンだが、現在欧州で供給に遅れが生じている。急拡大する需要に対応するため、ファイザーはベルギーの製造拠点で増産の準備を進めており、その過程で一時的に供給量が減少した。同社では2月中旬の解消を予定しており、その後は増産を見込んでいる。21年内に最大13億回分のワクチンを供給可能にするという当初の予定には影響はないという。また、日本への供給については、承認の時期に応じて迅速に進める考えだ。
一方、国内の供給体制で課題となるのは、ワクチンの輸送と保管方法だ。ファイザーとビオンテックのワクチンにはメッセンジャーリボ核酸(mRNA)という不安定な物質を使っているため、輸送と保管にマイナス75度Cの超低温環境が必要だ。
冷凍庫・保冷ボックス増産
ファイザーのワクチンはマイナス75度C、モデルナのワクチンはマイナス20度Cでの保管が欠かせない。ワクチンの保管需要の増加を受け、低温冷凍庫メーカーは供給体制を強化している。国内シェアの過半を握るPHCホールディングス(HD)は、20年8月から段階的に生産量を引き上げている。群馬工場(群馬県大泉町)では21年1月から24時間操業体制を取り、「通常時の2倍程度を生産している」(中村伸朗執行役員)。従業員を通常時の1.5倍程度に増員して対応している。
カノウ冷機(相模原市南区)は、海外企業に委託製造した低温冷凍庫を国内で展開する。叶伸一社長は「昨年末から国内で冷却性能の検査や出荷に当たる人員を増やし、需要増に対応している」と話す。
ワクチンを低温輸送するための保冷ボックスの開発も進む。スギヤマゲン(東京都文京区)は20年12月、ワクチンを低温で保管・輸送できる断熱ボックスを開発。ドライアイスだけでマイナス70度C程度を12日間維持できる。機能容器事業部の藤井健介部長は「電源が必要ないため、緊急時のバックアップにもなる」と期待する。アイ・ティ・イー(東京都千代田区)は、ドライアイスを使用せずに長時間保冷ボックス内をマイナス20度Cに維持する高機能保冷剤「アイスバッテリー」を展開する。専用の32リットルの保冷ボックスに、1.8キログラムのアイスバッテリーを9個入れることで、48時間以上マイナス20度Cを維持する。アイスバッテリーは、市販の保冷剤と同様に凍結させることで再利用できる。
自治体、体制構築急ピッチ
各自治体では接種に向けた体制づくりに追われている。横浜市は接種準備の専任チーム「ワクチン接種調整等担当」を新設した。担当者を増員し、場所や機材の確保、問い合わせ対応など準備を進める。さいたま市は保健福祉局の保健所に「新型コロナウイルスワクチン対策室」を新設。接種券の印刷・発送や市民からの問い合わせに応じるコールセンターの設置、接種会場の確保などを行う。東京都練馬区は、専任部署を今後新設し、接種で必要な予算の整理ができ次第、区の補正予算で対応するとしている。
各自治体で共通する課題が接種する人員や場所、機材の確保だ。特に「タイトなスケジュールにどう対応していくか」(埼玉県川口市保健総務課担当者)がカギだ。また接種に関する国からの情報が不足している。安全で速やかな接種を実現するためにもノウハウの共有が求められる。