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今期業績から見えてきた鉄鋼大手“冬の始まり”

止まらない鋼材輸出価格の下落。下期はさらに悪化へ
今期業績から見えてきた鉄鋼大手“冬の始まり”

各社とも下期の粗鋼生産計画見直しに迫られている(神鋼加古川製鉄所)


正念場をどう乗り切るか


 「ずっと下がってきており、下期(10月―2016年3月)もさらに下がらざるを得ない。下げ幅は上期(4―9月)よりさらに拡大する」。JFEスチールの田中利弘理事が説明するように、同社の四半期ごとの鋼材平均価格は、14年10―12月の1トン当たり7万7900円をピークに下がり続け、15年7―9月は同6万8800円と7万円を割った。上期平均では前年同期比5700円落ちているが、下期は到底、この程度では済みそうにない。

 新日鉄住金も同様だ。同社は下期の平均価格が7万3000円程度になりそうだと公表。下げ幅は前年同期比で実に1万4500円。上期実績の下げ幅5500円の2・6倍だ。このまま推移すれば、通期では前期比1万200円下がって7万7000円程度になる。

 もちろん、鉄鉱石や石炭など主原料価格も下がっており、これが単価にも反映されている。だが、中国企業の輸出攻勢によるアジア市況の低迷で「高級鋼では中国勢と競合しないが、それでも足を引っ張られる」(新日鉄住金の太田克彦副社長)のが現状。輸出価格の下げ幅は原料価格のそれを大きく上回る。その結果、製品マージン(利幅)も「国内はプラスだが、問題は海外。上期は前年より悪化しており、下期もさらに落ちる」(同)と顔をしかめる。

 加えて「(単価下落の要因には)製品構成の悪化が相当入っている。今の原油価格ではハイエンドのシームレス鋼管やUOE鋼管は増販できない」(JFEホールディングスの岡田伸一副社長)と述べるように、海外の油ガス田開発で油井管などに使われる高単価の高級鋼管の落ち込みが依然、響いている。

輸出依存度の高さで濃淡


 こうした事情は金額ベースでの輸出比率の数字にも表れる。新日鉄住金では7月末時点で50%弱と見込んでいた下期の輸出比率を43%に下方修正。12年10月の会社統合後、最低の水準だ。同じく50%程度と見ていたJFEも46%程度にとどまる。輸出依存度の高さも単価下落、ひいてはマージンの縮小につながった。

 対照的に輸出比率が低い神戸製鋼所は、さらに「採算の合わない輸出は減らす」(梅原尚人副社長)こともあり、品種構成の改善につながる。下期の販売単価の想定も「一概に下がるとは言い切れない」(同)としている。上期の平均単価の下げ幅も3700円と大手2社に比べ、ややマイルドだ。今回に限っての話だが、海外進出の遅れが衝撃の大きさを多少、緩和している。
日刊工業新聞2015年11月04日/05日 素材面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
冬の時代の始まり―。鉄鋼業界を取り巻く雰囲気は、まさにこんな感じではないか。遡ること3年前。超円高にあえいでいた日本の鉄鋼業が、政権交代を機に急速に円安が進行して息を吹き返す。為替競争力に加え、東南アジア諸国の経済成長も追い風となる。世界的な供給過剰で苦しむ欧州、韓国勢をしり目に、日本の鉄鋼業は成長をおう歌した。それが一転して苦しんでいる。この要因は複合的に絡んでいる。国内自動車販売は低調で、資材高や人件費高騰を背景に建設需要も鈍い。海外では中国、東南アジアの成長鈍化で鋼材需要が減少。さらに原油安を背景にエネルギー関係の案件が完全に止まり、パイプやプラント、海洋開発関連の鋼材需要は低迷した。安値の海外材の攻勢もボディーブローのように響く。3年前、日本の鉄鋼業界はコスト競争力に磨きをかけてきた。追い風が止んだ今こそ、真の実力が問われる。

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