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《中小企業のM&Aストーリー♯3》社員に最良の譲渡先選んだIT企業のケース

ソフトビジョンとウィズソフト
《中小企業のM&Aストーリー♯3》社員に最良の譲渡先選んだIT企業のケース

ソフトビジョン元オーナーの竹内氏(左)とウィズソフト社長の勝屋氏


自社商品獲得


 大阪のIT企業であるウィズソフト(大阪氏淀川区、勝屋嘉恭社長、06・6350・1500)は、M&A(合併・買収)を武器に事業成長を加速している。2008年には栄養管理ソフトを開発する「タス」を子会社化し念願の自社商品を入手。12年には東京のシステム開発会社「ソフトビジョン」を買収し、東京進出を果たした。一連の買収前に約12億円だったグループ売上高は、15年3月期で約30億円と急成長している。

 社長の勝屋はウィズソフトの創業メンバーで、04年に就任した。創業当初は自前での成長を考えていたが、経営者となった時に「現業を走らせたまま、自社ブランドの立ち上げなど新機軸を打ち出すことは難しい」と感じるようになる。自社ブランド構築には長い期間が必要で、その期間を買う手段として、戦略的にM&Aに取り組むようになる。
 **東京進出果たす
 タスとソフトビジョンのM&Aを通じ、自社商品獲得と東京進出を果たしたウィズソフトだが、「M&Aで一番良かったのは売上高規模を大きくできたこと」という。両社の収益率が同等なら、M&A後に利益が増え、設備投資や人的投資を行う余力ができる。「外部に委託していたサーバー管理も専門スタッフを雇い、自社でできるようになった。売上高10億と20億では、経営の余裕が全然違う」と笑顔をみせる。

 一般的にM&Aでは社員・組織の融合も課題だが、「中堅・中小企業の方が人的トラブルは少ない」と勝屋は分析する。大企業同士だと企業文化の違いが溝となることが多く、片方が大企業だと中堅・中小側は従わざるを得ない。
 **柔軟な対応力
 だが、中堅・中小企業の社員はもともと、少人数でいろんな仕事を担当していることもあり、新しいことにも積極的に取り組める素地がある。M&Aで新しい仲間が増えても柔軟に対応できるケースが多い。

 一社員の立場でM&Aを体験した、ソフトビジョンの坂本真澄総務部課長も「最初に自社が売られる話を聞いた時は衝撃だったが、次第に新社長で会社の方向がどう変わるかという期待が出てきた。今は社員の積極性を引き出す方向に経営が変わってきたと思う」と語る。

 ウィズソフトは10月1日付でソフトウエア開発事業をソフトビジョンに譲渡した。今後は持ち株会社としてグループ全体を引っ張っていく方針だ。M&Aで得た新たな仲間とともに、19年の新規株式公開(IPO)を目指している。(敬称略)
(文=鳥羽田継之)
日刊工業新聞2015年10月27日 金融面/2015年10月29日 金融面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
社員にとって最良の譲渡先を求めたことが、結果として企業競争力の向上につながっている-。こうした成功事例が増えることで企業数の9割を中小企業が占める日本経済は活性化するのでしょう。

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