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女性リーダーたちが語る「SDGs」を発展させる秘訣

女性リーダーたちが語る「SDGs」を発展させる秘訣

異なる分野で活躍する(左から)田中さん、松本さん、太田さん。自身の活動を発展・継続させた秘訣を聞いた

持続可能な開発目標(SDGs)は2016年のスタートから6年目に入った。企業はSDGs関連の活動や事業を利益に結びつけていく時期だ。とはいえ、取り組みの形骸化に悩む経営者や担当者が多いのでは。そこで異なる分野で活躍する3人に自身の活動を発展・継続させた秘訣(ひけつ)を語ってもらった。3人とも多くの人を巻き込むことを大切と考えており、企業のSDGs活動の参考となりそうだ。(編集委員・松木喬、大城麻木乃)

ジェンダーギャップ埋める 影響力ある人に接近

―まずは活動を紹介して下さい。
田中さん IT業界のジェンダーギャップを埋めるために女子中高生向けのIT教育と政策提言をしている。設立1年くらいで1000人以上の女子生徒と接点を持てた。

太田さん 社員一人ひとりがSDGsを“自分ごと化”してほしいと願い、活動している。これまで社員延べ1万人以上にSDGs勉強会を開いた。社内の「SDGsキーパーソン」となった社員270人以上と一緒に活動している。

田中沙弥果さん

また、社外活動のCSR48で知り合った食品会社にリコーのSDGsを紹介したことがある。すると、食品会社からリコー製品を活用した食育教育をしたいと言ってもらえた。自分たちはコピー機の会社と思っていたが、SDGsがキーワードとなると異業種とも一緒に何かを成し遂げられる。

松本さん 念願かなって広報担当になった1年前、大臣から「広報発信しても誰もみてない」と言われ、日本初の官僚系ユーチューバーが登場する「バズマフ」を立ち上げた。若い職員が公開した動画の視聴回数が多い。若手でも自由な発想で発信することが認められており、本人たちも生き生きとしている。

―活動を発展させたコツは。
田中さん かなりの人を巻き込んだ。シンポジウムに登壇した有識者にあいさつし、会員制交流サイト(SNS)をフォローした。影響力のある方には私自身が国際会議に登壇したいと相談もした。“雲の上の人”にアプローチしたことで、私たちを認識してもらえたのでは。

自由な発想で発信  “人のため”が“自分のため”に

松本さん 私も人を巻き込むことが大事と思っており、バズマフ立ち上げまでに省内でヒアリングした。すると前例がない、予算がない、仕組みがないと言われた。そこですべてを解決できるマニュアルを作った。秘書課にも相談し、業務時間の2割をユーチューバー活動に充てる仕組みも整えた。

松本純子さん

太田さん CSR48は勉強会からスタートした。学んだことを社内にも伝えたいが、説明に十分な時間をとれない。そこでCSR48メンバーが登場するカレンダーを作った。私たちは歌ったり、踊ったりはしないが、カレンダーがあればエレベーターホールで役員に「ちょっといいですか」と話しかけ、説明するきっかけになる。

―始めた活動を継続させる工夫は。
松本さん 私は自分のためと思って取り組んでいる。発信すると倍の情報が得られ、人を紹介すると倍の紹介が戻ってくるように、“人のため”が“自分のため”となるからだ。またバズマフの動画制作の基準は、農林水産業の魅力を伝えること、個性やスキルを生かすことだけと決め、上司が口を出さないことにした。職員に任せることで想像以上にユニークな動画を継続して発信できている。

太田さん やはり楽しくないと続かない。リコーの取り組みを紹介した他社の担当者が元気になり、感謝されるのがうれしい。私は異動してもサステナビリティー活動を続けると思う。東日本大震災の被災地を見て感じた思いが原点だからだ。

田中さん 私も楽しくやることと思っている。ある数学好きな女子学生が、情報工学系は男性ばかりだからと嫌がっていた。そこで私たちは、ITは男性社会だと決めつけるジェンダーバイアスがあると発信してきた。すると本人がバイアスにかかっていたと気づいた。優秀な女子が周囲から抑えられている現状があるが、きっかけがあれば1日でガラッと変わる。ギアチェンジをさせることが重要と思っている。

太田康子さん

社外女子会「CSR48」 メンバーの力を発揮させる

―偶然にも3人とも女性です。女性がリーダーとなるには。
太田さん 女性はフラットに多くの人と付き合える。ある大学の先生が、今は強い指導者よりもメンバーが力を発揮できるように導くリーダーが求められていると語っていた。私もそうなりたいと思う。

田中さん 女性は共創しやすい。一方、男性社会は他人をライバル視し、競い合ってきた。また、1人のリーダーが大きな組織を引っ張る時代が続いてきた。今は他者と手を取り合う時代になっており、社会課題に対してもタッグを組んだアプローチが適している。私たちは周囲からライバルと思われている企業にも相談したり、仕事を持ちかけたりする。

松本さん 農業は男性のイメージがあるが、実際の男女比は同等に近い。個人的には女子会はしないようにしている。週末に農業サークルをやっているが、男女平均になった方が面白い。

―21年の目標は。
田中さん IT教育が有料プログラムだと裕福な家庭の学生に参加がとどまる。今年は自治体と学校に導入し、機会格差を解消して多くの女子学生にプログラムを提供したい。また、1日でも早くジェンダーギャップを埋めるために、オセロのように形勢を変える一手を見つけてアタックしたい。

太田さん コロナ禍でテレワークや書類の電子化の相談が増えている。リコーはコピー用紙を使ってもらう商売をしているが、デジタルによる変革を広げて本業で社会に貢献していきたい。また、サステナビリティー推進担当者の元気がないと会社全体に影響する。CSR48のフィールドを活用し、各社の推進担当者のモチベーションを高める活動も継続したい。

松本さん バズマフで性別や年齢、場所を問わずに活躍する人を目の当たりにし、多様性の可能性を感じた。他省庁や自治体とも情報交換し、公務員ユーチューバーがたくさん出てきてほしい。

○田中沙弥果さん 一般社団法人Waffle代表。男性エンジニアが多いIT業界のジェンダーギャップ(性別格差)解消を目的に活動。政府主催の2020年「ジャパンSDGsアワード」受賞。
○松本純子さん 農林水産省広報企画第4係長。同省職員が農林水産業の魅力を動画で発信するユーチューブチャンネル「BUZZMAFF(バズマフ)」を立ち上げた。
○太田康子さん リコージャパンSDGs推進グループ兼広報グループマネージャー。企業のサステナビリティー担当者の“女子会”「CSR48」の総監督。
日刊工業新聞2021年1月8日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
皆さんのコメントにハッとさせられました。会社の同僚に「先に書いたのは自分」と言ったところで、読まれていなければ自己満足。世間に伝わらないと取材に協力いただいた方にもがっかりされます。メディアの大先輩は「こんな記事が載っています」「明日はこんな番組が放映されます」とPRしています。同じように社内ではなく、社外に発信したいです。どんな活動も共感してくれると人を増やさないと、形骸化していくと感じています。取り上げてほしいSDGsテーマがある方は、ニュースイッチの問い合わせまで。

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