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産業界のDX普及に立ちはだかる課題、経産省も厳しい指摘

「RPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)をやっていればデジタル変革(DX)になると思っている経営者も多いが、あれは“雑巾絞り”を自動化しただけだ」。システム構築(SI)大手、SCSKの谷原徹社長は苦言を呈する。

国内産業界では新型コロナウイルス感染症の拡大を受けてDXの必要性が叫ばれ、テレワークやRPAなどの導入が加速した。しかし従来、日本企業におけるIT投資の目的はコスト削減が主眼であり、成長事業の拡大に資するものは少ない。

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2020年4月に公表した調査結果によると、業務効率化や迅速な情報把握という“守り”の課題に対しては、約4割の企業が投資を振り向けている。だが、事業モデルの変革をはじめとする“攻め”の投資ができている企業は3割程度。課題は攻めであると認識していても、意思決定まで至らない事例は多いようだ。

経済産業省は20年12月に発表した「DXレポート2(中間取りまとめ)」で、DXの本質は、事業環境の変化に素早く適応する能力を身につけて企業文化を変革することだと指摘。「実に全体の9割以上の企業がDXに未着手レベルか、散発的な実施にとどまる」と手厳しい。

ただ、手をこまねく会社ばかりではない。谷原SCSK社長は「上場企業の70%くらいはDX推進のための組織をつくっている」とも語り、コロナ禍を機に姿勢や行動が変わってきた顧客は少なくないとする。今後はそうした体制の実効性が課題になりそうだ。

野村総合研究所の石綿昌平DXコンサルティング部長は、DX関連部署の要員について「経営企画部門から来る人は既存事業と離れたところでアイデアを考えることが得意でも、実行力は伴わない場合がある。(営業や製造など)現業部門の出身者は、現場の課題に近くて実行力もあるが、非連続なことは考えにくい」と分析。メンバーの出身母体のバランスに配慮した上でDXのチームを形成すべきだと提言する。

真の意味でのDXを普及させるには、IT企業側の努力も欠かせない。経産省はDXレポート2で、「受託開発型のビジネスに固執するベンダー企業は、今後、ユーザー企業のニーズ・スピード感に応えられなくなる可能性が高い」と警鐘を鳴らした。言われた通りにシステムをつくる受け身の姿勢ではなく、変化し続ける市場ニーズに対応していくためのDXを顧客と一体的に進められるか。意識改革が急務となる。

日刊工業新聞2021年1月6日

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