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“匠の技”を担う。工作機械に宿る先端技術がスゴい

“匠の技”を機械が担う―。少子高齢化などにより製造業で熟練技能者の減少が深刻化する中、工作機械業界で機械の自動化を進化させる技術開発が加速している。工作機械による高付加価値な加工の実現に向けて、計測や人工知能(AI)などの先進技術を機械に搭載。熟練技能という“無形資産”を紡ぎつつ、日本の産業競争力を維持・向上する上で、工作機械メーカーが果たす役割は従来以上に大きくなってくる。

高精度加工「誰でも簡単」

加工現場では高精度を安定維持するため、熟練技能者の経験や勘に多くを頼ってきた。彼らの引退が続く中、熟練の技に代わるモノづくりの高度化は産業界の重要課題だ。オークマはプレス金型用の門型マシニングセンター(MC)「MCR―S」で往復段差0・5マイクロメートル以下(マイクロは100万分の1)と高い加工精度を追求。従来は常識だった職人技による金型の手磨き仕上げを不要にした。

さらに同MC向けに、熟練技能者に頼らず高精度を維持できる新技術も開発。加工空間の精度を機械自身が自己評価し、校正を行うべき時期を指示する「精度安定診断機能」と、誰でも容易に最短45分で校正できる「3Dキャリブレーション」だ。両技術は従来オプションとして提供していたが、2020年11月に発売した最新の門型MC「MCR―BV(ビーファイブ)」では標準仕様にした。「誰でも簡単にできる知能化技術を今後も強化する」(家城淳社長)方針だ。

DMG森精機は業務提携するニコンのレーザースキャナーを用いた非接触機上計測システムを開発し、同12月に商品化した。工作機械上で計測できるため、計測専用機への移し替えが不要だ。レーザー照射により点群をマイクロメートル単位で計測し、大型ギアやタービンブレードなど大型・複雑形状の加工対象物(ワーク)でも短時間で計測できる。森雅彦社長は「3次元でも難しかったものが、機械でチャッキングしたまま測れる。微妙な追い込み加工などにも使える」と優位性を強調する。

人による段取り不要に

セラミックスなどの脆性材向け加工でも計測の自動化が進む。牧野フライス製作所は11月に発売した脆性材加工向けMC「eグラインダーBG500」に、工具形状の測定機能を搭載した。従来の脆性材加工では砥石(といし)工具の測定や摩耗管理の工程を職人の手作業で行っており、自動化に向けた課題の一つだった。そこで同社は砥石形状の自動測定や形状の合否判断を行う電着砥石測定機能を開発し、これらの工程を自動化。「人のスキルに依存しない工具測定」(桑島拓也プロジェクトリーダー)を実現し、加工効率の向上とともに砥石工具の寿命や精度向上が図れる。

電子機器用微細金型などのマイクロメートル級の精度を要求される微細加工分野でも、高精度化・効率化に向けて機上計測の重要性が高まっている。碌々産業(東京都港区)は、機上にワークを取り付けたまま加工から3次元測定、補正プログラム作成、追い込み加工まで一貫サイクルで対応するシステム「COSMOS(コスモス)」を開発した。加工後の寸法測定の際にワークの取り外しや再段取りの工程が不要となる。

微細加工では、機械が正確に動いても切削工具のたわみや摩耗の影響を受けて、図面通りに加工できないケースがある。従来は誤差修正のためにワークを取り外して3次元測定機で精度を測ってから追い込み加工を行うが、測定後の再段取り時に芯がずれて誤差が生じるほか「現状は人が手動で段取りを行っているので再現性がない」(海藤満社長)などの課題があった。

誤差発生予測し補正

AIの活用により、工作機械が熟練の技を担う動きも今後拡大しそうだ。ヤマザキマザックのコンピューター数値制御(CNC)装置「マザトロール スムースAi(エーアイ)」はAIを搭載し、従来30分程度を要した加工プログラム作成時間を2分に大幅短縮できる。加工品の計測データ履歴を深層学習(ディープラーニング)して加工誤差の発生パターンを認識。加工データを補正し、主軸のびびり振動も抑制する。

スムースAiは20年11月に発売した5軸制御加工機「バリアクシスi―800 NEO」など対象機種を拡大。同12月販売分からIoT(モノのインターネット)での遠隔支援サービス「マザックアイコネクト」の利用を3年間無料にした。

ジェイテクトはモノづくりを高度化する基本技術群を「TAKTICA(タクティカ)」としてブランド化する方針だ。その一環で熟練の技をAI活用に置き換える技術も数多く実用化している。「エッジチェッカー」は工具寿命を判断し、ぎりぎりまで使い切る技術。「プロセスサインポスト」は機械や工具、ワークの特性から総合的に判断し最適な加工条件を示す。「ロードチェッカー」は従来は熟練技能者が音などで判断していた加工負荷を検知し、自動で加工条件を補正する。「『次はこうしたい』との要望も増えた」と、加藤伸仁専務は手応えを感じている。

データ/受注、緩やかに回復続く

2021年の工作機械市場は、緩やかながらも回復傾向が続き、20年の受注水準を上回りそうだ。20年11月までの単月受注額では、5月の512億円を底に改善傾向が続き、9月以降は800億円以上を維持。日本工作機械工業会(日工会)の飯村幸生会長(芝浦機械会長)は21年について「20年4―5月を底に受注額のレベルが上がっており、その延長線上にある受注水準を考えている」とする。

日工会が会員企業を対象に実施した21年1―3月期の工作機械受注予測DI(「増加」と答えた企業の割合から「減少」と答えた企業の割合を引いた値)は、20年10―12月期から24.3ポイント改善のプラス9.5で、10四半期ぶりのプラスに転じた。電子技術の進展や人手不足、脱炭素への対応に関する需要拡大が見込まれる。加工工程の自動化や熟練技能の機械化に対するニーズも一層強まりそうだ。

KEYWORD機上計測

工作機械などの加工機上でワークの精度を計測する作業のことで、加工前の工作物の位置やアライメント(位置決め)、加工後の寸法や形状、表面粗さなどが計測の対象となる。計測工程は作業時間がかかるため、作業者の負担も大きい上に、全員が正確に計測できる技術を持たないと生産性低下の要因となる。また、加工現場の省人化や自動化を進めるために、手軽で高精度の機上計測技術の必要性が今後さらに高まることが予想される。

日刊工業新聞2021年1月1日

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