携帯料金引き下げで存在感増すドコモ、その料金戦略を解剖する

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新料金プラン「アハモ」は起爆剤になるか(井伊基之社長)

国内携帯通信業界でNTTドコモの存在感が増している。菅義偉政権の通信料金引き下げ要請を受け、ドコモは格安の新プラン「アハモ」投入をいち早く発表。これに伴う業績下押し圧力を踏まえ、収益源を多様化する姿勢も鮮明にした。ドコモは2020年3月期連結決算で売上高・営業利益とも業界3位に甘んじたが、携帯通信サービスのシェアは1位を堅持してきた。業界の代表として変革を先導し続けられるか試される。

「アハモ」の衝撃

「通信もサービスも期待される品質と価格を提供する」―。ドコモの井伊基之社長は、こう決意を示す。同社は2020年12月、新料金プラン「アハモ」を21年3月に投入すると発表。データ容量が20ギガバイト(ギガは10億)で月額2980円(消費税抜き)とした。競合のKDDIやソフトバンクは20年10月、それぞれのサブブランドで、20ギガバイトを4000円程度とする新プランを発表していた。それだけにアハモの割安さが際立つ格好となった。

ドコモはアハモの発表により、菅政権が重要な政策課題と位置付ける携帯通信料金引き下げの先導役を果たしたとも言える。武田良太総務相は20年11月、「多くの利用者が契約しているメーンブランドは新しいプランが発表されていない」と指摘。利用者が同一事業者内でブランドを移る際に複雑な手続きや手数料が必要な点も問題視し、「高いブランドに囲い込みをしている」と批判した。

アハモでは、事務手数料や細かい割引の条件などがなくなっている。その後ソフトバンクとKDDIはブランド間の乗り換え手数料無料化を決定。ソフトバンクはアハモと類似する新料金プランも発表した。ドコモの決断が競合他社をも動かしたことは間違いない。

8KのVR映像生配信

ドコモの料金戦略には、第5世代通信(5G)の普及を促す狙いも込められている。2021年4月1日には、大容量データ通信を使う人向けの新料金プランを投入。5Gは現行比1000円安価になり、4Gも同600円安くなる。5Gと4Gの料金差を小さくして、5Gを選んでもらいやすくする考えだ。

5Gならではのコンテンツが求められる(「8KVRライブ」のイメージ=ドコモ提供)

ただ当然ながら、料金だけで顧客が動くわけではない。まして5Gは、20年3月に商用化されたばかりだ。基地局などの通信インフラを整えて5Gを使える地域を広げたり、魅力的な端末をそろえたりする必要がある。

また、コンテンツの充実も欠かせない。この観点で太口努5G事業推進室長は「没入感や臨場感を顧客に感じてもらえるものが必要」と分析する。ドコモはライブ配信サービス「新体感ライブ CONNECT(コネクト)」に、8K画質の仮想現実(VR)映像を生配信する「8KVRライブ」機能を追加した。こうした“5Gならでは”のコンテンツが増えれば、消費者の関心も強まる。

太口室長は端末の品ぞろえの拡充予定なども踏まえ、20年度末に5G契約数を250万とする目標の達成は「見えている」と語る。どれだけ上振れするか、注目が集まる。

スマートライフ分野拡充

ただ、携帯通信料を値下げしつつ5Gインフラの整備も進めるとなると、業績への打撃は必至だ。そこでドコモは、金融をはじめとする非通信の「スマートライフ事業」を強化。社内ベンチャー制度を活用した新規事業の創出にも取り組む。

しかし従来、ドコモの同制度における成功事例は少なかった。笹本健多郎オペレーション支援担当部長は、この背景を「ベンチャー精神の育成が主眼だったため、ビジネスとしての成長を目的にしていなかった」と分析する。

非通信事業の重要性が増す(ドコモのスマホ決済「d払い」のイメージ=同社提供)

ドコモは2001年に同制度を発足。それから数年間で5社が誕生したが、5社の中で現在も残っているのは1社にとどまる。10年ごろからは応募自体がほとんどなくなった。「スマートライフ事業で新ビジネスの企画が社内でもできるようになった」(笹本担当部長)にせよ、制度の形骸化は否めなかった。

そこで19年に制度を刷新。ドコモへの利益貢献を重視する観点で審査を行う方針に転換し、19年度は27件の応募があった。結果、複合現実などの技術を使ったサービスの企画・開発を手がける複合現実製作所(東京都港区)が20年8月に設立された。

社員に新たな挑戦を促しつつ、業績も向上できるか。ドコモのかじ取りが問われる。

データ/非通信の伸びカギに

ドコモの事業セグメントは三つに大別される。携帯通信サービスや、スマートフォンをはじめとする端末機器販売などからなる「通信事業」が主力。ほかに、金融・決済や映像配信といった「スマートライフ事業」、法人向け商材を中心とする「その他の事業」がある。2020年4―9月期連結決算(国際会計基準)では、売上高のうち通信事業の割合が約77%だった。

菅義偉政権は携帯通信会社に通信料引き下げを強く求めており、ドコモも新料金プラン「アハモ」の投入を決めたことなどで通信事業の収益性低下は必至。非通信分野の重要性がこれまで以上に増す。

ドコモはスマートライフ事業に携わる社員の数を、23年度に現行比約1000人増の2500人以上とする方針。同事業の売上高は、23年度に19年度比2倍強の1兆2000億円にする考えだ。

KEYWORD【第5世代通信】

第5世代通信(5G)は高速大容量・低遅延・多数同時接続が特徴で、2020年3月に商用化された。産業向けでは遠隔医療や自動運転などでの活用が期待されている。KDDIとソフトバンクは、4G向けの周波数帯を5Gに転用することで、5G基地局の早期整備を図る。ただ、4G周波数による5Gサービスの通信速度は、4Gと同等とされる。ドコモは当面、5G用に割り当てられた新周波数帯の活用を重視し、速さや品質を追求する。

日刊工業新聞2021年1月1日

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