三洋化成と経営統合が破談になった日本触媒、五嶋社長の新たな成長戦略
高吸水性樹脂、立て直し
三洋化成工業との経営統合が白紙となり、単独での成長戦略を進める日本触媒。業績の立て直しを喫緊の課題と捉え、主力製品「高吸水性樹脂(SAP)」の生産性向上などを急ぐ。一方、新規事業・新製品開発など戦略投資の手は緩めない。五嶋祐治朗社長に課題や見通しを聞いた。
―2020年度を最終年度とする中期経営計画で掲げた売上収益4000億円、税引き前利益400億円は、未達の見通しです。
「目標が達成できないことは反省しなければならない。次期中計を22年度にスタートする。今の危機的状況を回復させなければならない。新しい経営計画を始めるまでに、19年度あるいはその前の収益レベルまで足元の業績を回復させる」
―SAPの需要予測を教えて下さい。
「成長率は先進国で年3%程度、新興国で同5―7%程度とみているが、20年は需要が縮小し供給過剰だ。値上げの好機を21年、22年とみていたが、2年程度ずれるかもしれない。ある程度コロナ禍が収まれば元のペースに戻るだろう。21年夏には新機能のSAPが本格的に立ち上がる。さらに次のプロセスもパイロットプラントでテスト中だ」
―「SAPサバイバルプロジェクト」と題した収益改善に取り組んでいます。
「本格的に効果が出るのは2年ほど先になりそうだが、21年度で数十億円の効果が出る。同プロジェクトの知見を酸化エチレン(EO)にも展開する。原料から流通までサプライチェーン(供給網)全体で取り組む。他社と物流の相乗りなども考える。EOも積み上げれば数十億円の効果になろう」
―損益分岐点の引き下げ目標は。
「次期中計では損益分岐点を(20年度業績見通しに比べ)10%以上、引き下げた状態で始めなければ、コロナ禍のような経済環境の激変に耐えられない。きつい目標だが、SAPやEOなど販売量の大きな製品を中心に、徹底的なコストダウンと効率化を進める」
―リチウムイオン電池用の電解質「イオネル」の動向は。
「現在、年間約300トンの生産能力がある。23年に新しく2000トンの製造設備を稼働予定だが、これでも全く足らないだろう。次の増強も計画しており、欧州での現地生産を検討中だ。全固体電池向けにも使えるよう、開発を進めている」
【記者の目/トップの経営手腕問われる】 21年3月期連結業績予想は米中貿易摩擦やコロナ禍の影響で売上収益が前期比14・0%減、税引き前利益が同77・8%減となる見通し。3分野8領域で新事業創出を進めており、中でもモビリティー領域に含まれるイオネルは「期待の星」(五嶋社長)。業績の立て直しと成長戦略を並行するトップの経営手腕が問われる。(大阪・友広志保)