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大学教員による創作著作物、権利の原則は個人?法人?

これってどうなの?著作権 大学の現場で #09

大学内で教員が創作する著作物、あるいはそれに類似する創作物は多岐にわたる。研究論文、論説、授業スライド、プログラム、芸術系の研究室では絵画や音楽など、およそ社会全般で発生する著作物と同じ多様な創作物が日々生まれている。

長年の慣行として、大学では論文を含む教員の著作物は、個人帰属を原則に控えめなコントロールを行っている。学会誌投稿規定による権利変動もこの個人帰属を前提とした書きぶりになっている。職務発明の規定でも、発明との一体管理が適切とされるプログラム著作物とデータベースのみを機関帰属とする大学が大半である。

【法人保有も】

このように明らかに個人帰属が許容される著作物等が存在する一方で、大学が外部の権利主体と契約した共同研究報告書など、大学・教員双方とも権利帰属を厳密に捉えずに業務が進行することも多い。ただ、特許法とは異なり著作権法で規定する職務著作は(1)法人その他使用者(法人など)の発意に基づく(2)法人等の業務に従事する者が職務上作成する(3)法人が自己の著作名義の下に公表する(4)作成時の契約・勤務規則その他で別段の定めがない―という各要件を満たせば、創作した自然人ではなく法人自身が著作者となり、法人が原始的に著作者人格権と財産権としての著作権を保有する仕組みとなっている。この点は、外部組織との共同研究報告書で、大学が著作者であることが認定された知的財産高等裁判所の判決でも確認することができる。

【バランス取る】

例えば山口大学が出版した書籍「楽しい著作権法」は、知財センター教員が知財教育に資する目的で職務として執筆しており、奥付表記を「制作・著作 国立大学法人山口大学」として著作者が法人自身であることを明示している。その一方で、単著300ページを超える創作を担当した教員の教育研究上の業績を明らかにするため、奥付上部に「著者」として氏名を表記し、その前ページに著者略歴を記述した。著作権法で使う語句は「著作者」であるが、権利帰属と貢献した創作者表示の両対応を行う方策として「著者」という表記を使った。

このように大学の著作権管理は、権利関係の整理、教員の教育研究業績や貢献度の整理で、バランスを取ることが望ましい。

◇帝京大学教授・共通教育センター長 木村友久

日刊工業新聞2020年11月5日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
著作権は例えば、文章を書いた端から権利が発生する。出願が必要な発明と異なって、各教員の活動を大学組織がすべて把握することは不可能だ。また費用もさほどかからず、備品など大学のものを使ってだか自宅のものを使ってだかもはっきりしない点も、「発明なら、大学の施設や設備を活用したはず」というのとは様子が違う。とはいえ、権利が大学にあることもあるわけで、その線引きが今回の記事で記された。

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