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投稿論文と投稿小説、著作権の違いはどこ?

連載・これってどうなの?著作権 大学の現場で#08

論文や小説、絵画や音楽は、その表現に創作性があれば創作者に著作権が発生する。著作者人格権以外の権利は譲り渡すことが、有償でも無償でも可能である。ここで文章を投稿する場合の著作権を考えたい。

まず趣味で書いた小説を文学賞の公募に応募する場合がある。出版社などが主催する小説コンクールを探すと、おおむね著作権については応募者本人と記載され、記載されていない場合は、著作権者は応募者本人と解される。一方で出版権、映像化権、二次利用権は、主催者である出版社に帰属することが明記されている。権利料については賞金に含まれるといったものもある。出版社が新人発掘育成のためよい作品を選んだのに、賞金を勝ち得た後で他社に使用許諾をされては困るため、自社が間に入って二次利用などを行うのは当然といえる。

【出版に限定】

学者が論文を大学紀要や学会誌に投稿する場合はどうであろうか。著作権は投稿した紀要や学会誌などに移転していることも多い。例えば早稲田大学比較法研究所発行の紀要「比較法学」では、当該研究所ホームページに「著作権は比較法研究所に帰属します」と書かれている。

学会などは投稿論文をまとめた論文集の出版も、電子的形態での発行も可能だ。しかしその内容が映像化あるいは二次利用ということは考えにくく、結局は出版での利用に限定される。

【規約を読むこと】

海外でも大学紀要といった法学系レビュー誌は、同様に著作権を譲渡する契約が多いとある研究者は書いている。この研究者自身が、ある論文をロー・レビューに掲載したのちに、SSRNという無料で論文をダウンロードできるサイトに掲載し、同誌から「著作権が移転しているため、サイトへの掲載はできない」といった連絡を受けたと紹介している。実際、投稿後の論文は有料のオンラインでのデータベースを通して読むことが可能であり、つまり投稿誌がデータベースからの使用料を受け取っていることになる。著作権は著作者に帰属するままで、発行や電子的に出版することのみ、学会などの権利を設定する流れがあるとされる。いずれにせよ紀要に論文を載せる際にはその投稿規約を読むことをお薦めする。

◇山口大学国際総合科学部教授(知的財産センター長) 小川明子

日刊工業新聞2020年10月22日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
規約は、その活動をよく知った人が読むのでないと、判断ができないどころか、そもそも読む気にもならないものだ。今回の記事で、小説と論文それぞれの「定番」を把握できる。その上で、投稿者は「投稿先の権利扱いは、自分にとって問題ないかどうか」を考えればよい。本記事は研究者に向けたものだが、懸賞小説雑誌にも掲載したら喜ばれる(出版社は嫌がる?)内容といえそうだ。

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