コロナ禍で一段と加速した化学業界のDX、「協力と競争」の線引きが難しいデータ共有
新型コロナウイルスの感染症拡大で、化学業界にとってデジタル変革(DX)は一層重要なものとなった。各社は開発を進めてきたデジタル技術を前倒しで活用し、海外への技術支援や大規模工事で“3密”防止を図った。将来、新たな感染症に備えるためにも、業界連携を含め中長期的に生産のDXを加速する必要がある。
旭化成は新型コロナを受け、海外の工場建設現場へ試験的にスマートグラスを送付した。現地の作業者が装着し、日本の生産技術担当者がその場にいる感覚で工事進捗(しんちょく)などを遠隔で確認。工事の遅延を防ぐために活用した。もともと熟練作業者のチェックポイントや視点を共有するために開発中だった技術をベースにした。
1―2カ月間、数万人が集まってプラントを定期修理する作業は特に感染対策に気を使う場だ。3密の防止と同時に、残業上限を超えない業務効率化が求められる。
三菱ケミカルは茨城事業所(茨城県神栖市)で5月から1カ月半、定修を実施。同社ではこれまで書類へ押印して個々の作業を許可し、受け付け前に工事業者の行列ができていた。そこで新たに書類に無線識別(RFID)タグを取り付け、タグを一括で読み取ることで受付時間を短縮。また課長職による作業確認も従来の目視から映像などでできるようにした。
化学各社は中長期的に、温度や圧力、流量などのデータを人工知能(AI)で分析して異常を検知する技術やドローン(飛行ロボット)の活用などによる生産のDXを進めている。新型コロナ感染拡大を受けて急きょ導入したデジタル技術は、ごく一部にすぎない。
今後、各社の技術開発に加え、将来を見据えたデータ共有の議論も必要になる。例えば、配管腐食の画像判定などはデータが豊富な方が技術開発を加速できる。データは重要な資産のため協力と競争の線引きは難しいが、DXの重要性が高まった今こそ、連携の推進が期待される。
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