「この5年で制度が足りず退職した人はいない」。三井化学が進める女性支援の中身
育休PJ、社員の意識変える
三井化学は女性の活躍推進に向けて支援制度の充実から、さらに一人ひとりの行動を変える活動へ踏み込む。例えば男女で育児休暇取得に差があれば、妊娠前であっても上司が女性部下の大型案件担当への任命をためらい、昇進の差につながることもある。支援制度だけでは活躍できない。上司のマインドを変え、男性の育休を増やし、女性自身がキャリアアップを考えることで本当の女性活躍を目指す。(梶原洵子)
「育児や介護などとの両立を支援する制度は充実している。この5年で、支援制度が足りずに退職した人はいない」と、人事部ダイバーシティ&インクルージョングループの安井直子グループリーダーは話す。約15年前から制度拡充が進み、介護・看護で20日間の有給休暇を取得できる制度まである。他社からうらやまれるほどだ。
それでも5年前に同グループが設立された時、「最初の1年、女性管理職の育成は四面楚歌(しめんそか)だった。『女性に負荷をかけるとかわいそう』という声もあった」(安井グループリーダー)。社内が全体的に前向きになったのは1―2年前、社会が変わってからだ。
女性活躍に一層力を入れるため、2019年度から男性の育児休暇取得や時短勤務を推進するプロジェクト(PJ)を立ち上げた。男女の育児参加を均等にし、見えない昇進機会の差を減らすのが狙い。例えば同じ部署に20代後半の男女2人の部下が配属された時、男性が育休を取らない会社であれば、上司が「女性は育休を取るだろう。大きな案件は男性に任せよう」と考えるからだ。
同PJではセミナーなどを通じて利用できる制度や育児参加の事例を共有している。同PJを担当する人事部人材グループの櫨山(はぜやま)義裕採用チームリーダーは、19年に1カ月の育休を取得した。「(妻が)妊娠安定期に入って上司に報告し、仕事を調整した。早くに分かれば周囲も自分も準備でき、育休のハードルが下がる」(櫨山チームリーダー)。
どんなタイミングで休むかは夫婦によって違い、「長期育休でなく、時短や在宅勤務との組み合わせもいい。満足できる育児参画が大事」(同)と考える。安井グループリーダーは「一番大事なのは配偶者との会話。男女が育児によって仕事にかけるブレーキを半々にすれば、互いが十分にキャリアを積めるようにしたい」と話す。
管理職の育成では、女性側の意識を変える必要もある。化学業界は過去に女性の採用が少なく、キャリアアップのロールモデルがいない。そこで同社では女性自身がキャリアアップのための働き方を考え、提案するPJ型研修なども行う。現在、女性管理職の比率は3・3%。母数となる採用拡大との両輪で管理職の育成を進める。
三井化学はポートフォリオ変革を進めており、多様な視点が一層重要になる。「女性だけでなく、障がい者など、がんばりたい人が自分が持つものを出せる環境にしていきたい」(安井グループリーダー)と、必要な活動を一つずつ実行する。