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『AI保育革命』は日本の人口問題を解決する

グローバルブリッヂHD社長・貞松成著

人と接するサービスは「温もり」が過大評価されがちだ。保育や介護がその典型だろう。機械による自動化や効率化は「悪」とされ、人による作業が「善」と無条件にみなされる風潮すらある。働く人は辛い状況に耐え、ひたむきに頑張ることが称賛され、環境は過酷になる。少子高齢化で担い手はますますいなくなる。そうした状況は果たして変わるのか。12月1日に発売された『AI保育革命』(貞松成、プレジデント社)に詳しい。

著者は千葉県を中心に認可保育園を73園(2020年10月時点)運営する。業務支援システムを開発し、保育士の手書きによる事務作業をデジタル化したり、見守りロボットを就寝中の子どもの呼吸のチェックに活用したりICT化を進めている。

「ICT化を進める保育園」と聞くと、現場からアナログを拝し、効率化をひたすら追い求めるように映るかもしれない。だが、著者のゴールはそこにはない。「日本の人口問題の解決」をゴールに設定する。

学生時代、著者は効率的にお金を稼ぐことだけを考えて働いていた。あるとき、アルバイト先の経営者にそうした姿勢を一喝され、目が覚める。お金を稼ぎたいというが、稼いだところで何をしたいのか。働く目的とは、本来、何かの形で世の中の役に立つことではないかと考え直す。それならば、日本の人口問題を解決しよう。そのために保育園をつくって増やしていこう。

もちろん、思い立ったところで保育園は簡単につくれない(その経緯も山あり谷ありで興味深いので気になる人は是非本書を手に取って欲しい)。

起業して、保育園の開園にこぎ着けても、支出に収入が追いつかない状態が続く。夜にバイトをしてスタッフの給料に回していたほどだ。

そうした苦境を乗り越えられたのも大きな目標があり、そのためにすべきことが明確でぶれなかったからだろう。「保育園の数を増やし、保育の質を上げる」。

デジタルは質を上げる手段で、デジタルを使えるところは使い、アナログが適した部分はアナログを残す。例えば、デジタルを導入すれば、可視化されてこなかったニーズもあぶりだすことになる。いままで知らなかった園の課題や子どもの意外な関心も浮き彫りになる。労働環境が改善されれば、保育士は人にしかできない新たな課題に取り組める。

本書では保育の現場の現状や、著者の運営する園での取り組みが詳述されている。ひとつひとつの取り組みから浮かび上がるのは「いかなる価値を提供するのか、利用者は何をのぞんでいるのか」と自問自答し続ける著者のひたむきな姿勢だ。

このような行為は当たり前のように思えるかもしれないが、言うは易し。今、日本企業は業種を問わず、デジタル化に旗を振り始めているが、デジタル化することが目的になってしまっている企業は少なくない。「かけ声は大きいが、何をしたいのかわからない。とりあえず声をあげている」といった現場のぼやきも聞こえてくる。

変わらないままの業務プロセスをいかに見直すのか。どのように変えていくか。そもそも変えなければいけないのか。何のために変えるのか。多くの企業の参考になることは間違いない一冊だ。

(文・栗下直也)
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