菅政権の中小企業再編・統合方針は乱暴。技術や知財の流出危機を招く
多品種少量生産の受け皿守れ
菅義偉政権は中小企業基本法を見直し、中小の再編や統合を促す方針を打ち出した。日本の生産性が低いのは中小企業が足かせとの指摘もあり、この底上げを図り、国際競争力を高める狙いだ。しかし中小企業は国内生産の海外移転の中で技術と付加価値を高め生き抜いてきた。グローバリズムの終焉(しゅうえん)やコロナ禍など転換期を迎えた今、その恩典をなくし再編・統合する考え方はいささか乱暴だ。多品種少量生産の流れを支えるしっかりとした受け皿を構築する政策が求められる。
独自技術、宝の山国内企業の99%以上を占めるのが中小企業だ。この定義に合えば税制上や補助金などのメリットを受けられる。恩典を享受するため枠にとどまることを選択するケースが少なからず存在し、それが生産性向上を阻害する要因という指摘がある。菅政権が中小再編に着手する背景がここにある。
2000年代には小泉純一郎政権による改革でグローバリズムが進行した。ビジネスを世界に広げた者が勝つとばかり、大企業が生産を海外に移転する流れが加速。中小企業の受注は大きく減り、過当競争の中で低収益にあえいだ。淘汰(とうた)もあったが、手厚い中小政策により存続できた製造業は少なくない。また技術開発と高付加価値化により活路を切り開いた。今の中小には独自技術や高度な生産ノウハウなどの蓄積が宝の山のようにあり、これが日本の成長を支える源泉と言える。
生産統合は好機近年、ビジネス環境はさらに変化している。英国の欧州連合(EU)離脱や米中貿易摩擦など以前のグローバリズムは終息しつつある。これに伴い大企業を中心に「生産統合」の傾向を感じる。大きな市場が見当たらなくなり、米中のデカップリング(分離)が進み、コロナ禍が追い打ちをかける。工場を統合し、多品種少量生産に移行する流れが今後も進む。地産地消で海外に工場を移転していった逆の流れだ。
これが中小製造業の好機になると期待が膨らんだ。大企業で対応しきれない細かい仕事が中小に流れてくるからだ。ここで菅政権が中小の恩典をなくし無理やり統合を進めれば死屍(しし)累々となる可能性があるばかりか、蓄積してきた技術や知財が流出する危険さえある。安易な中小再編の政策には反対する。今は中小やスタートアップがしっかりとした受け皿となれるような支援策が必要だ。(東京都台東区台東1の23の6)
略歴やまだ・まさひで 81年(昭56)日大経済卒、同年カツヤマキカイ入社。85年山田マシンツール取締役、91年専務、06年社長。日本工作機器工業会監事などを務める。長野県出身、63歳。