【三菱150年】“三菱ブランド”は信頼回復の強い動機付けを与える
連載・スリーダイヤと私#5 三菱マテリアル社長・小野直樹氏
―三菱にとって鉱業は海運に次ぐ長い歴史を持っています。創業家とのつながりは。
「2018年に社長になった時に先輩から勧められた本がある。『随時随題』という三菱創業家4代目岩崎小弥太のスピーチをいくつか抜粋して集めたものだ。戦前に三菱を持ち株会社体制にした時や、戦後の財閥解体で退任する時のスピーチがある。ほとんどが今の時代にも通用する。例えば物事を進めるには協同一致が重要だと説く。各人の間で十分な意思疎通を図ることが必要だと。1920年の話だ。私も社員に自由闊達(かったつ)で風通しの良いコミュニケーションをしようと言っているが目指すところは全く同じだ」
「統合によって、当社の規模がいったん小さくなるような受け止めをされることがあるが、随時随題では、いたずらに量的拡大を生むのではなく、競争の質がきちんとしていることが重要だとある。これも私自身が社内で言っていることだ。随時随題に基づいて経営判断を下しているわけではないが、大いにインスパイアされるところがある。いつもそばにおいていて、折に触れて目を通している」
「随時随題には正義を行動しなくてはならないとか、正直、勤勉、親切という言葉がちりばめられている。こうした言葉を自分なりに考えて力を得ることが多い」
「新たにメンバーとして加わった立場としては、先輩経営者からいろいろなアドバイスをいただける貴重な場だ。同じ頃にグループ会社の社長になった者同士で会話ができることも良い」
―逆風下での社長就任で金曜会メンバーからどんな言葉をかけられましたか。「これからが大事だと。社長を引き受けた以上、会社を良くしていくという意味合いで激励をたくさんの方からいただいた」
―三菱ブランドを維持していくことも金曜会の役割です。「品質問題の渦中にある当事者として、一生懸命に信頼回復に努めている。先輩たちが築き上げてきた三菱ブランドを一時的に傷つけてしまいそうな場面だから、いち早く信頼回復をしないといけないという強い動機付けを、三菱ブランドが与えてくれている」
日刊工業新聞2020年11月3日