学会にもニューノーマルの波! 定着が進む「オンライン開催」
新型コロナウイルス感染症の収束が見込めない中、研究者が集まる学会にもニューノーマル(新常態)が浸透し始めた。秋の学会シーズンは、日本機械学会や日本ロボット学会など多くの学会がオンライン開催に切り替えて実施した。現地開催とオンラインを併用して実行した学会もある。春は開催そのものを中止した学会がほとんどだったが、どこにいても参加できる「オンライン学会」が新たな形態として定着しようとしている。(藤木信穂)
動画・ウェブ会議活用
コロナ禍で大学や研究機関の機能が停止しても個人の研究活動は続いており、特に若手研究者や学生にとって成果を発表する学会は貴重な場だ。だが、全国から研究者を集めて会合やイベントを開く学会は感染リスクが非常に高くなる。また会場は主に大学が使われるため、キャンパスが軒並み閉鎖された2020年は現地開催に大きなハードルがあった。
9月に年1回の年次大会のオンライン開催を終えた日本機械学会は、ポスター発表を含む一般講演をすべてウェブ上で実施し、聴講は動画投稿サイト「ユーチューブ」、発表と質疑応答はウェブ会議システム「ズーム」を用いた。オンライン開催に伴い参加費は例年の半額程度にした。
「対面での意見交換や生の声を聞くことも大切」(江口勝彦大会委員長=アイシン精機執行役員)との考えからギリギリまで現地開催の可能性を探ったが、最終的に再流行への懸念が拭えず現地行事を取りやめた。
急きょオンライン開催となり、実行委員会は準備に忙殺されたが、参加者数は例年並みで学会は盛況のうちに終えた。一方で、これまでブースを設けて展示していた「企業展示室」のウェブ開催には企業からのデータ集めなど苦労も多かったという。同学会は少なくとも21年3月末までは講演会やセミナーなどをオンラインで開催する方針だ。
春の総合大会を中止した電子情報通信学会も9月にソサイエティ大会をオンラインで開催。同じく春は中止した応用物理学会も9月に学術講演会をオンラインで実施した。ポスター発表を中止した影響などのほか、「研究所の閉鎖などで研究が遅れ、6月末の締め切りまでに発表原稿がまとまらなかった」といった声があり、参加者は例年よりも少なかった。日本ロボット学会は準備が間に合わず、9月から10月に日程をずらしてオンライン学術講演会を開いた。
いずれの学会も初めての経験で手探りの準備作業が続いたが、大きなトラブルもなく開催日程を終えた。背景には先に開催した学会からアドバイスをもらうなど多くの工夫があったようだ。
移動不要 気軽に参加
一方、参加者にとっては現地への移動が不要になり、また複数の分科会に気軽に参加できるなどオンライン化のメリットは大きい。「タイムシフト機能があり、ライブで参加できなくても後から視聴できた」「地方や海外にいて子どもが預けられない中でも参加できた」と満足度の高さがうかがえた。
一方で、やむなく中止した学会もある。日本遺伝学会は9月に熊本で開催予定だった大会を取りやめた。「オンライン開催も検討したが、時間的にも機材や人材的にも余裕がなかった」という。日本生物工学会も9月の大会を中止に。日本精神科医学会は「新型コロナ感染症の診療にあたる先生方に臨床に専念してもらうため」などを理由に10月に予定していた学術大会を4月時点で中止にした。
ただ、中止した学会も授賞式やシンポジウムなどはウェブで開催したケースが多く、また大会の講演要旨集は発行し発表を予定していた研究は今回の業績として認めている。
日本神経治療学会は10月末まで東京・新宿で行った学術集会を現地とオンラインのハイブリッド方式で開催した。事前の参加登録制をとり、会場規模を縮小するなどして感染対策を施し、無事に開催にこぎつけた。
日本生態学会は21年3月のオンライン大会開催に向けて準備中だ。今春の大会中止により会場のキャンセル料などで大幅な赤字が見込まれたが、参加費を返金しない形で寄付を募るなどして次回大会につなげる。
学会は大学や企業の研究費やコスト削減などから会員数の減少が続いており、総じて厳しい現状にある。もちろん議論や交流の場がないことはデメリットだが、低予算で実施できるオンライン学会の可能性は大きい。セミナーや講演会はすでにオンラインが一般的になりつつある。現地開催が解禁されても、オンラインとの併用は、ウィズコロナ時代の学会のスタンダードになるかもしれない。