アツギ「ラブタイツ」の炎上で考える。ジェンダーと商品開発
企業の商品開発で「ジェンダー(社会的性差)」の重要度が高まっている。意図的でなくても性差別的な表現や誤ったメッセージを発信すれば、交流サイト(SNS)などを通じて「炎上」し企業ブランドまで毀損しかねない。商品開発でジェンダーの要素を適切に取り入れられるかが問われる。一方、性差を超えたジェンダーレスの商品開発に取り組む動きも活発化する。
AI(人工知能)スピーカーは女性に関する固定観念を定着させ、性差別を助長する懸念がある―。国連教育科学文化機関(ユネスコ)は2019年の報告書で警鐘を鳴らした。音声対話で利用者の指示に応えるAIスピーカーのどこに問題があったのか。
読み解くカギの一つは「ジェンダーマーカー」にある。これはジェンダーを表す記号で、例えば公衆トイレの表示では女性は赤色、スカート、男性は青色、ハットが使われる。多くのAIスピーカーで音声設定は「高い声」という女性を表すマーカーだった。
ジェンダーマーカーそれ自体は記号にすぎない。しかしAIスピーカーでは、それと機能が結びつき問題視された。利用者の乱暴な発言にも、たしなめることなく素直に応じる仕様となっており、高い声と相まって、「『女性は従属的・補佐的』というネガティブなステレオタイプが踏襲された」と大阪大学文学研究科の西條玲奈助教は説明する。
一方、ジェンダーマーカーを使いプラス効果を得るケースもある。例えばジェンダーマーカーは親しみを持たれやすいとされる。この特徴からPRアイコンに女性アイドルを起用し、男女の双方から支持を集めるといった事例は少なくない。
ジェンダーマーカーを取り入れる場合、対象は誰か、流通の仕方、発表の場などを考慮する必要がある。対策の一つとして、同じ製品でも種類を増やしたり、利用者がカスタマイズできるようにしたりする措置は有効だ。例えば米アップルのAIアシスタント「Siri(シリ)」は男女の声を選べる仕様で、ユネスコが指摘したような問題が起きるリスクを抑えたといえる。
トラブル回避の手っ取り早い方法として、ジェンダーマーカーを避ける選択肢もある。西條助教は美少女キャラクターを使った商品や宣伝手法が乱立している例などを挙げ、「ジェンダーを使った分かりやすい表現は模倣されやすい。ジェンダー的表現を抑制すれば、新たな発想で今まで届かなかった層にアプローチできるようになるのではないか」と副次的効果も指摘する。
ジェンダーマーカーの特性を知り適切に取り扱えば、炎上を回避できるだけでなく、商品力やマーケティング力の向上につながる。