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迫る大阪都構想の住民投票!「PR不足」と企業はシビアな反応

迫る大阪都構想の住民投票!「PR不足」と企業はシビアな反応

都構想の意義を強調する松井市長(左)と吉村知事(昨年9月12日)

大阪市を廃止し、四つの特別区に分割するいわゆる「大阪都構想」の住民投票が迫った。都構想で大阪の経済は変わるのか。企業のトップや有識者の発言から都構想の展望や課題を探る。(大阪・大川藍)

「レストランと同じで、店の大きさや運営者ではなく料理の中身やコストパフォーマンスが大事」。組織論に終始する推進派に対し、関西経済同友会の深野弘行代表幹事(伊藤忠商事専務理事社長特命)は政策を問う姿勢を明確にする。大阪商工会議所の西村貞一副会頭(サクラクレパス会長)も「政令市としての力が衰える懸念などがまだまだPR不足」と説明不足を指摘するなど、企業の反応はシビアだ。

都構想への理解が深まらない背景には、構想実現による新たな戦略が明示されないことがある。

推進派で大阪維新の会の吉村洋文大阪府知事は「(政策を)実行する制度や組織の問題と、その政策は分けて考えなければならない」と述べ、今回の住民投票では制度論を純粋に問う考え。ただ、政策自体が不明瞭なことには判断つかないというのが産業界の本音でもある。

橋下徹、松井一郎両氏が2011年に大阪府知事と大阪市長に就いて以降、維新は府市協調の「バーチャル大阪都」体制を築いてきた。産業支援機関や大学など、二重行政解消を目的に統合した機関は多岐にわたる。

また高速道路のミッシングリンク解消など府市の足並みがそろわず実現しなかった政策を推し進め、20カ国・地域(G20)首脳会議大阪サミットや大阪・関西万博などの大型イベントも呼び込んだ。産業界では維新のこうした推進力を評価する向きは多い。

維新行政で機関統合が進んだ結果、二重行政としての課題は減少している。立命館大学法学部の村上弘特別任用教授も「残る二重行政は水道と消防くらいだ」と指摘。都構想のメリットを打ち出しにくくなっているのは皮肉な現実だ。

一方、こうした実績は首長同士の人間関係によるもので、仕組みとしては脆弱(ぜいじゃく)なものだとする見方もある。大阪府・市が進める都市構想は、都構想が否決され現在の協調体制が「バラバラになれば実行できない」(吉村知事)可能性がある。両首長を制度として一本化し、強いリーダーシップで政策を推し進めるべきだとするのが推進派の主張だ。

議論が尽くされていない感のある都構想だが、吉村知事は「『国際金融都市』一つとっても、都構想が実現しなければ箸にも棒にもかからない」と意義を強調。国際金融都市構想は海外から金融機関や人材を誘致し金融の一大拠点を目指すものだが、特区の設置など国や自治体の推進力がなければ実現できない高いハードルが存在する。住民投票可決後、府は国際金融都市の誘致を急ぎたい考えだ。

制度改正がこうした構想の実現にどれだけ寄与するかは未知数だが、「さまざまなアイデアで大阪を活性化しようとしている」(古市健関西同友会代表幹事、日本生命保険副会長)と、維新の姿勢を評価する声があるのも事実。11月1日の住民投票を経て大阪がどこへ進むのか、どの企業も注意深く見守る。

日本総研調査部関西経済研究センター長・若林厚仁氏に聞く

大阪市を廃止し、四つの特別区に分割するいわゆる「大阪都構想」の住民投票まで残り2日。投票で賛成多数となれば、大阪は2025年1月1日に都区制度へ移行する。都構想による制度変更で大阪の産業は活性化するか。関西経済に詳しい日本総合研究所調査部関西経済研究センターの若林厚仁センター長に聞いた。

日本総研調査部関西経済研究センター長・若林厚仁氏

―都構想による産業構造への影響をどう見ますか。

「大阪産業局に象徴されるように、ここ数年は大阪府・市の行政機関の統合が進み、いわゆる“二重行政”は解消してきた。大阪都構想による行政システムの変更だけで産業にメリットがあるかと聞かれれば疑問だ。都構想後の施策が示されているわけでもなく、これだけで経済へのインパクトがあるとは考えにくい。行政側は具体的なビジョンを引き続き提示し続ける必要があろう」

―制度変更そのものに経済を動かす力はないということでしょうか。

「都構想が変革の機運を高める可能性はある。ここ数年、関西では訪日外国人(インバウンド)が活況だったが、東京の一極集中を変えるには至らなかった。関西経済の次のけん引役を考えたとき、都構想は一つの呼び水となるかもしれない。マクロ経済では人の期待に働きかける金融施策が非常に重要で、機運が前向きになると投資や消費も積極的になることがわかっている。大阪・関西万博と都構想が同じ2025年にあることは一つの推進力になると見ている」

―法改正を経て“大阪都”になれば、大阪のブランド力が高まるとの見方もあります。

「大阪都になれば一時的な注目は集まるだろうが、世界的なブランド力が一朝一夕に上がるわけではない。それよりも、2度の万博を経験する大阪が国連の持続可能な開発目標(SDGs)を実践する先進都市であるという情報を世界へ発信し続けることが重要だ。大阪市であろうと大阪都であろうと、世界的に見れば『Osaka』に変わりない。名にこだわるより情報発信の仕方を考える必要があろう」

―大阪経済の浮揚に必要なことは。

「大阪の低迷の理由は人の流出だ。情報通信や研究開発(R&D)など知識集約型産業は東京に集積してきた。大阪では観光産業が活気づくことで人口流出は止まりつつあるが、こうした労働集約型産業は相対的に付加価値が低く、生産性は高くない。大阪が国際金融都市構想や大胆な規制緩和によるベンチャー構想で人を呼び込み、知識集約型の産業を集めることができれば府市一体型の行政システムを目指す都構想にも一定の意味があると言えるのではないか」

記者の目/結果にかかわらず経済を前に

1970年の大阪万博以降、経済の低迷が続いた関西。都構想の実現が閉塞(へいそく)感を打破する一手となるかは未知数だ。いずれの方向に進もうとも行政は民意を受け止め、大阪の10年先を見越した力強い経済政策を実行してほしい。(大阪・大川藍)

日刊工業新聞2020年10月29、30日

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