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酒造り文化を語り継ぐ「沢の鶴資料館」、次代の担い手呼び込む

酒造り文化を語り継ぐ「沢の鶴資料館」、次代の担い手呼び込む

江戸時代後期の木造蔵を活用した沢の鶴資料館

兵庫県西宮市から神戸市の間に位置する「灘五郷」。古くから日本有数の酒どころとして知られる。沢の鶴(神戸市灘区)は、その一角を占める神戸市中心部にほど近い西郷(にしごう)で長らく酒造業を営んできた。同社が一般公開する資料館として同業他社よりも早く1978年に開館したのが「沢の鶴資料館」だ。

建物は江戸時代後期に建てられ、75年まで清酒の醸造に使われていた木造の蔵を活用した。80年には酒造り道具とともに、兵庫県から「重要有形民俗文化財」の指定を受けた。

館内では江戸中期から昭和の半ばにかけて行われていた酒造りの工程をたどれる。洗米、蒸米から酒と酒かすを分離する上槽(じょうそう)の工程や、酒の味や香りを決めるこうじ造りのための室(むろ)も見学できる。「各工程を実際に手がけていた場所で、使用していた酒造り道具とともに昔の酒造りの工程を再現している」(沢の鶴資料館事務局の伊勢貴一課長)という。

同館は95年の阪神・淡路大震災で全壊した。文化財としての指定を維持するため建屋の柱などに従前の木材を使用する一方、木造建築物への採用としては全国初となる免震システムを施した。

再建を果たしたのは99年。復興までの4年間に発掘調査が行われ、「天保10年(1839年)」と記された大工の棟梁(とうりょう)による墨書や、全国でも珍しい遺構として、もろみから酒を搾りとる地下構造の槽場(ふなば)跡が発見された。こうした灘ならではの遺構と合わせ、昔からの酒造り文化を次代に語り継いでいる。

2019年の来館者数は約2万5000人で、うち約1割弱がインバウンド(外国人観光客)だった。現在、コロナ禍とあって来館者数は前年同期比で約8割程度の減少が続いている。この状態はしばらく続くと予想され、同館は「会員制交流サイト(SNS)なども活用し、若者などの次代の担い手への呼び込みを強化したい」(同)と前を見据える。

【メモ】▽開館時間=10―16時▽休館日=水曜日、盆休み、年末年始▽入館料=無料(10人以上は要予約)▽最寄り駅=阪神電気鉄道阪神本線「大石駅」▽住所=神戸市灘区大石南町1の29の1▽電話番号=078・882・7788

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