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機械加工の基礎!「切削熱」を制御せよ

おすすめ本の抜粋「わかる!使える!機械加工入門」
11月8日から13日までの6日間、東京ビッグサイトで4年ぶりのリアル開催となる日本国際工作機械見本市・JIMTOFが行われます。さまざまな工作機械、機械工具、機械部品などが展示され、国内外から来場者が集まります。日刊工業新聞社が発行している書籍・雑誌の中から、工作機械産業に関連した特におすすめの書籍・雑誌を紹介します。

切削熱

1.発生原因
図1に、切削工具で工作物の表面を削り取るときのシミュレーション結果を示します。切削工具で金属を削るには大きな力が必要です。切削力によって工作物は削り取られ、削り取られた部分は切りくずとして排出されますが、切りくずを生成・排出する際、切削力(力学的エネルギ)は切削熱(熱エネルギ)に変化されます。一般に、切削点の温度は600~1000 ℃に達します。

図1 切削工具で工作物の表面を削り取るときのシミュレーション結果

2.切削点近傍の現象
図2に、切削点近傍の模式図を示します。切削点近傍の現象は主として、①切りくずの分離、②切りくずの生成(組織のせん断変形)、③切りくずと切削工具(すくい面)の摩擦、④切削工具(逃げ面)と仕上げ面の摩擦の4つに分類できます。この4つの現象によって切削力は切削熱に変化しますが、切削熱が高くなるもっとも大きな現象は「②切りくずの生成(組織のせん断変形)」です。工作物および切りくずは3つの領域で塑性変形が生じますが、第一塑性領域が範囲も変形量ももっとも大きくなります。言い換えれば、切りくずの生成(組織のせん断変形)を抑制できれば切削熱は低くなります。切削点で発生した切削熱は工作物、切りくず、切削工具の3つに伝播(流入)します。

図2 切削点近傍の模式図

3.切削熱がもたらす不都合
切削熱は工作物、切削工具、切りくずにそれぞれ伝播しますが、工作物と切削工具は熱による不都合を受けます。工作物は熱膨張するため、設定切込み深さよりも実際の切込み深さが大きくなり、削り過ぎが生じます。また、工作物の表面が本来の硬さよりも軟らかくなったり、硬くなったり(加工硬化)します。切削工具は温度が高くなると軟化するため工具寿命が短くなります。 逆に、切削熱は切りくずに伝播する割合を多くする方が好都合です。ただし、高温の切りくずが工作物やテーブルに堆積すると、工作物や工作機械本体が熱変形するため加工精度に影響します。切りくずは、すみやかに機外へ排出することが加工精度向上のポイントです。

4.切削熱がもたらす好都合
切削熱が高くなることで工作物が軟化し、削りやすくなります(切削抵抗が小さくなります)。ただし、切削工具は高温でも軟化しないセラミックス工具を使用することが必須です。また、高温になると、溶着(溶融した工作物の一部が刃先に付着する現象)が発生しないため、理論に近い表面粗さを得ることができます。

5.切削熱を低くする手段
切削熱を低くするためにはせん断変形(塑性変形)の度合いを小さくし、発生熱量を抑えること、切削熱を冷やすことがポイントです。そのため機械加工では通常、切削点に向かって切削油剤を供給します。切削油剤の潤滑性によりせん断変形を抑制し、発生熱量を抑え、切削油剤の冷却効果により切削熱を冷やします。切削工具が回転する正面フライス加工やエンドミル加工では、工作物を削っている時間と削っていない時間の割合を適正に調整することも、切削熱を高くしない方策として効果的です。

【要点ノート】
切削熱は工作物のせん断変形(塑性変形)が主因です。せん断変形の度合いを小さくすることが、切削熱を抑制する最大の対策です。

(「わかる!使える!機械加工入門」p.16-17より一部抜粋)

<書籍紹介>
機械加工は、工業製品を作るために欠かせない加工技術。精度の高い加工品を作るためには、機械の操作を覚えるだけではなく、加工の仕組みを理解し、出来上がりをイメージすることが大切である。本書では機械加工の原理、加工時の段取り、加工で起こる現象について解説する。

書名:わかる!使える!機械加工入門
 編著者名:澤武一
 判型:A5判
 総頁数:176頁
 税込み価格:1,980円

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
日刊工業新聞ブックストア

<執筆者>
澤武一(さわ たけかず)
芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 教授
博士(工学)、テックマイスター、ものづくりマイスター
1級技能士(機械加工職種、機械保全職種)
著書に『わかる!使える!マシニングセンタ入門』『わかる!使える!作業工具・取付具入門』(日刊工業新聞社)など多数。

<目次(一部抜粋)>
第1章 機械加工の原理・原則と工作機械の種類
機械加工とは?/知っておきたい業界用語/切削力と切削抵抗/切削熱/切りくずからわかる情報/マザーマシンとは?/代表的な工作機械 など
第2章 段取り(切削工具、といし、治具、測定具、加工準備と工程、金属材料の種類)
切削工具材質の種類と基本特性/切削工具と転削工具/普通といし/ツーリング/治具/スケールとノギス/マイクロメータ など
第3章 加工条件と加工現象
回転数と切削速度/研削条件/上向き削りと下向き削り/切削工具の摩耗と損傷/切削抵抗とびびりの関係
第4章 最新工作機械と機械加工を助ける技術
5軸制御マシニングセンタ/グラインディングセンタ/超精密旋盤/大型工作機械/複合工作機械/超音波加工機/3Dプリンタ/つながる工作機械(IoT) など

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