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BtoCでファン層拡大、ソレノイドから伝えるものづくりの魅力

ユーザーに寄り添うタカハ機工
BtoCでファン層拡大、ソレノイドから伝えるものづくりの魅力

ソレノイドを使った作品を競い合うコンテスト。写真は2017年に開催された第4回の大賞受賞者

店での会計に使われるレジや現金自動預払機(ATM)、ドアのロック、車のシフトレバー、産業機械の安全装置など多様な分野の機械で駆動部品として使われる「ソレノイド」。生活に身近な機器でも活躍しているが見えない場所に組み込まれることから、その存在を知る人は決して多くはない。タカハ機工はソレノイドを作り続けて約40年。短納期と高品質を実現する一貫生産体制で大手電機メーカーなどに供給している。近年はソレノイドの認知度を高め、利用のすそ野を広げようと一般向けコンテストやオープンイノベーションによる他社との製品開発にも取り組む。

社会を支える駆動部品

ソレノイドは、電磁コイルに電気を流すことで発生する磁力によってプランジャーと呼ばれる磁性体の鉄芯を直線運動させる。動く長さや力などは細かな制御による調整が可能。構造がシンプルで安全性や安定性に優れる。タカハ機工は、動きや大きさなどが異なる約270種を製品化している。同社の強みである納期と品質を支えているのは「大手メーカーに鍛えられた」(大久保泰輔社長)という豊富な経験と生産体制。開発・設計から出荷時の検査まで自社で行う一貫生産体制が特徴だ。プレス部品用の金型製作や樹脂成形も自社で手がける。開発には経験や蓄積してきたノウハウ、磁場解析技術といった最新技術を発揮する。

同社が手がけるソレノイドは270アイテムにも上る

例えば、ソレノイドの動きや耐久性を左右する鉄芯の先端部の形状や表面のなめらかさは設計力や切削技術などがあってこそ実現できる。幅広い協力会社と長年培ってきたネットワークは製品作りだけでなく即日出荷が可能な短納期にも貢献している。タカハ機工には、使用するソレノイドに関するさまざまな相談がユーザーの技術者から寄せられ、製品で応える。

販売面ではEC(電子商取引)に力を入れ、会員制交流サイト(SNS)の活用も早くから取り組んできた。ネット販売は国内で2007年にスタート。12年には海外向けサイトとオンラインストアを開設した。今では世界中から注文が寄せられる。同年には同社公式のユーチューブチャンネルとフェイスブックも始めた。ソレノイドの動きが伝えられる動画の活用には特に力を入れており、新たな使い方の提案に大きく貢献している。さらに、アイドルグループのように「会いに行けるソレノイドメーカー」と称して従業員が歌ったり踊ったりの動画も作成している。BtoB(企業間)取引を主力としながらもBtoC(対消費者)取引にも積極的だ。

大久保泰輔社長。手にするのはソレノイド

需要拡大へ幅広い世代と接点

ソレノイドの需要拡大に向けて力を入れているテーマがソレノイドの知名度向上とオープンイノベーションだ。知名度向上を目的に取り組んでいるのが20年が第7回となる「タカハソレノイドコンテスト(ソレコン)」。ソレノイドを使った物を自由な発想で製作して応募してもらう企画である。ネットショップを始めてからタカハ機工には趣味で作った発明品を知らせる一般ユーザーがいたためコンテストを開催することにした。応募作品には生活に役立つアイデア品もあれば人を楽しませるユニークな物もある。参加者は小学生から70代の元技術者など幅広い。同社はコンテストに参加する若い世代が技術者となったときにはソレノイドを採用してもらいたいとの願いがあり「コンテストは種まき」ともとらえる。現在はソレコンに加え、ソレコン用のポスターを対象にした「ソレコンポスターコンテスト(ソレコンポスコン)」も開いている。

創造性発揮へ二つの拠点

ソレノイドを使った製品を創造する拠点となっているのが本社敷地内にある二つの施設。16年に開設した「タカハイノベーションパーク(TIP)」と19年開設のスタートアップ支援施設「MVP ROOM」だ。両施設には、ユーザーの求める仕様に合わせる従来のものづくりだけでなく、社外との連携も生かしてソレノイドの使い道を創造していきたいとの思いが込められている。若手従業員や社外の創造性を発揮できる施設としての期待は大きい。

TIPは、米国の住宅をイメージした、れんが造りが特徴でカフェスペースも併設。大型プリンターも備え、イベント用の記念品などオリジナルグッズを作ることもできる。一方、MVPルームはの従業員が自由な発想で楽しみながらモノづくりに使える施設。3Dプリンターやレーザーカッターなどデジタル対応機器をそろえ、切削加工機も用意している。素早い試作対応にも活躍しており、リラックスできるスペースでは楽器の演奏を楽しむ従業員もいる。ちなみにMVPはミニマム・バイアブル・プロダクト(実用最小限の製品)の頭文字。同施設から生み出したい製品のテーマだ。新型コロナウイルス感染拡大を受けて開発を進めているアルコール消毒用装置もここから生まれたアイデアだ。

ソレノイドを使った製品の創造拠点となるTIP

19年には電子工作キット「ソレキット」とソレノイド専用基板「マルチコントローラー」を発売した。キットは動く土偶やペンギンなどが簡単に作れる。コントローラーはソレノイドの操作が簡単にできる製品でソレノイドを使った工作の可能性を広げた。タカハ機工のさまざまな取り組みでソレノイドファンは着実に増えている。単純な直線運動だからこそ、何をどう動かすかや直線運動から別の動きを生み出すかなど創意工夫の余地が大きく、それがものづくりの魅力につながる。ファンは年齢や性別を問わず、若い女性もいる。ファンサイト「ソレキット研究所」にはソレノイドを使ったさまざまな作品の動画が投稿されており、動きを楽しんでいる様子が伝わる。ソレノイドを分かりやすく説明した漫画「ソレノイド探偵団」もファンの拡大に一役買っている。

【企業情報】
▽所在地=福岡県飯塚市有安958の9▽社長=大久保泰輔氏▽設立=1979年▽売上高=5億4300万円(2020年3月期)

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