現場の中心が20代の金型専業メーカー、「勘・コツ」のデータ化で技能伝承に成功
ナゴヤダイスはボルトやギヤ、シャフトなど自動車部品向けの冷間鍛造金型を主力とする金型専業メーカー。工程レイアウトの検討に始まり、金型設計、機械加工、磨き・仕上げ、成形トライまでを一貫で行える体制を敷き、同じ寸法に仕上げるのが難しい焼ばめ金型を安定して供給できるノウハウをもつ。
同社の加工現場は若手が活躍しており、全体を束ねる工場長も30歳代。若い社員が力を合わせて高精度な冷間鍛造金型の製作に取り組んでいる。熟練技術者からの技能伝承や、勘・コツに頼らなくても品質の良い金型を生産できる体制の構築にも注力している。工場長を務める皆川宗行さん、製造主任の石塚大貴さん、検査課の関口あみさんに話を聞いた。
同社は1981 年に自動車向けの冷間鍛造金型の設計・製作で事業をスタートし、関連する分野として熱間鍛造金型や精密プレス金型にも領域を広げてきた。名古屋市にある本社工場に加え、2013年から本社と同等の能力をもつインドネシア工場を稼働。顧客のグローバル化にも対応している。
売上げの7~8 割を占める冷間鍛造金型では外径サイズφ100~200mm をメインに扱い、φ400mm程度まで製作実績がある。本社工場には約40人が勤務。温度管理された恒温工場内に安田工業製の高精度加工機「YBM シリーズ」や東京精密製の接触式3次元測定機など高精度加工のための設備を揃えている。2019年にはアプライドデザインが提供する鍛造シミュレーションソフトウェア「QFORM」を導入し、部品の成形性の確認や金型破損の原因究明に役立てようと取り組んでいる。
20歳代が現場の中心
同社の特徴の一つとして、現場の中心を若手が担っていることが挙げられる。20年ほど前から新卒者を毎年5~6人採用しており、社内の平均年齢は30歳前後。高校新卒採用が主で、数年をかけて一人前の技術者に育て上げるというスタンスをとっている。現場は20歳代が最も多く、30歳代半ばで責任ある役職に就くケースもある。
皆川さん、石塚さん、関口さんはいずれも新卒で採用された。3人とも2013年に本社工場に増設した恒温工場で働いており、同社の扱う金型の中でもより高精度を求められる金型製作に携わっている。
入社21年目の皆川さんは、職業訓練校で機械加工を学び、入社後は汎用フライスやNCフライス、形彫り放電加工機、マシニングセンタ(MC)などさまざまな機械を担当してきた。同社では2~3年で担当する機械や工程が変わるため、入社して何年か経つとどの加工機もほぼ扱えるようになる。現在は工場長として機械加工部門全体に目を配りながら、MC加工をメインに担当している。
11年目の石塚さんは工業高校を卒業し、汎用旋盤を皮切りに汎用フライスや研磨など幅広い業務をこなしてきた。入社2年目から5年間、先輩の皆川さんにマンツーマンで指導を受けた経験があり、今もいろいろな相談に乗ってもらっている。2019年12月からは、皆川さんの業務を引き継いで形彫り放電加工機を担当。「必要な3次元形状を加工するのに、電極をどんな向きでどう押し当てるのかをイメージするのに苦労している」(石塚さん)。新しい業務に一日でも早く精通しようと奮闘している最中だ。
4年目の関口さんは商業高校を卒業しており、同社に応募する際は事務職を希望していたが、検査員として声がかかった。「要望に応えてみよう」と思い、内定をもらって検査課に配属。図面の読み方、ノギスやマイクロメーターなど検査器具の使い方を一から学んだ。現在は3次元測定機での検査業務を任されるまでに成長。疑問点は同機に詳しい皆川さんに確認しながら、ミスのない作業を心がけている。「測定結果が会社の評価につながるという点で責任の重い仕事。やりがいがある」(関口さん)。
±1μmの加工精度に挑む
皆川さんが束ねる機械加工部門では、冷間鍛造金型の高精度化ニーズにどう応えるかが課題となっている。一般的な冷間鍛造金型の寸法公差は±10~20μm だが、最近は最も厳しいもので寸法公差±1μmのニーズがある。同社で製作する精密プレス金型では、寸法公差±5μm以下に対応してきた。そこで、精密プレス金型で培った高精度加工のノウハウを冷間鍛造金型に応用し、寸法公差±1μmを実現しようと取り組んでいる。
最も重視しているのは徹底した温度管理だ。高精度が求められる金型は恒温工場で加工や測定を行い、周囲の温度変化がワークや加工機に与える影響を極力減らしている。加工機を置くスペースは20±0.5℃、3次元測定機のある部屋は20±0.1℃ で管理。加工スペースの8カ所にセンサを取りつけ、温度の変化を常時監視している。
それでも±1μmの加工精度を達成するのは容易ではないという。特にMC加工では±5μmの精度を出すのが現状では精一杯だ。そこで、少しでも目標に近づけようと皆川さんが工夫しているのがツールパスの作成方法だ。「X・Y・Z の3 軸を同時に動かすと、どれほど機械が高精度でもずれが生じてしまう。同時に動く軸を極力少なくしたツールパスにすれば、精度が出やすくなる」(皆川さん)。同社のMCは4軸までの同時制御加工が可能だが、皆川さんはCAMの機能を使って制限をかけ、2軸同時制御までに抑えたツールパスを作成。加工する形状によっては難しい場合もあるが、「うまく工夫すれば2軸までに抑えられるケースが大半」だと言う。
3次元測定機による検査を担当する関口さんも、「最近は1μm単位の精度のワークが多くなった」と話す。高精度になるほど測定誤差が発生しやすいので、室内の温度管理を徹底するだけでなく、ワークを非接触式温度計で測って20±0.1℃になっていることを確認してから測定している。また、高精度加工に取り組む担当者は「狙った数値が出ているか」を気にするため、測定値が公差内に納まっているかをチェックするだけでなく、実際の測定値を加工担当者にフィードバックするよう気をつけている。
加工のデータベースを構築
同社では、安定した品質の金型を提供できる体制づくりも課題だ。40歳代や50歳代が数人しかいない若手技術者が中心の現場では、いわゆる勘やコツに頼る金型づくりが難しい。代わりに注力するのが加工条件や加工結果をデータベースとして残す取組みである。「個人の勘・コツに頼ると、どうしてもトラブルに発展してしまうことがある。できれば、それとは違った生産体制を目指したい」(皆川さん)。
データベースの構築は工場全体で行っている。石塚さんは3年ほど前、汎用旋盤を長年担当してきたベテラン社員について、技術・技能の手ほどきを受けた。その際も教わったことを文章や写真で残し、ほかの若手技術者と共有できるようにした。今担当している形彫り放電加工でも、どんな加工条件で、いくつの寸法を狙ったときに、仕上がりがいくつになったかをデータとして残している。データを残すために用意された既存のフォーマットに手を入れ、誰が見てもわかりやすいように改良も施した。放電加工では次の磨き工程のために磨き代を残すが、多く残しすぎると磨きにかかる時間が長くなり、少なすぎると磨いても放電痕を取り去ることができず、型寿命が短くなってしまう。ちょうど良い磨き代を残して磨き工程に渡すためにも、過去のデータが参考になるという。
同社が得意とする焼ばめ金型の製作でも過去のデータがポイントになる。焼ばめは主に円筒状の部品を、収縮を利用して締結する方法。鉄製の円筒部品を550℃で3時間加熱し、熱で膨張した円筒の内側に超硬合金製の金型部品を落とし込む。冷めれば鉄が収縮して、超硬合金部品を外側から締めつける。この締めつける力によって、金型として使ったときに割れにくくなる。成形時に高い負荷のかかる冷間鍛造金型は長寿命化が課題であり、焼ばめは重要な工程と位置づけられている。
外側の円筒部品は汎用旋盤で加工する。円筒部品をどのくらいの寸法に仕上げるかで、超硬合金部品を締めつける力が変わってくる。締めつける力が弱ければ型寿命が短くなるし、強すぎると金型として使う前に超硬合金部品が割れてしまう。そのため、汎用旋盤で加工した後の寸法データをしっかり記録しておくことに意味があるという。皆川さんは、「データを残しておけば、引き継いだ人がデータを参照しながら加工できる」と話し、今後もデータの蓄積を続けていく考えだ。
「お客様に喜んでほしい」
皆川さんは工場長としての業務の傍ら、鍛造シミュレーションソフトウェアによる解析作業も担当するようになった。「いろいろな条件があり、条件をいかに現実に近づけるかがポイント。金型設計の知識も必要なので、時間をつくって覚えるようにしたい」と、金型の付加価値向上につながる業務に意欲を見せる。
石塚さんは「工場長のような技術者になりたい」と語る。10年以上働いても、「まだまだわからないことがある」。幅広い知識をもち、部下に適切な助言ができる技術者が目標だ。
「1μmの誤差もなく、誰からも信頼してもらえる測定データを出せるようになりたい」と話すのは関口さん。3次元測定機を使えるのは社内でまだ数人。「大事な仕事を任せてもらっている」という喜びを感じながら、一つひとつの作業に向き合っている。
金型の高精度化やそれに伴う確実な精度保証は今後も継続して求められることが予想される。それに応えるには現場を構成する若手社員一人ひとりがレベルアップし、技術力の底上げを図ることが不可欠だ。「高精度の金型を安定して供給し、お客様に喜んでもらいたい」と話す皆川さんのもとで、強い現場が実現しつつある。
会社概要株式会社ナゴヤダイス
所在地:名古屋市緑区定納山1-401
電話番号:052-624-0202
代表取締役:山口邦夫
資本金:1,000万円
創業:1981年
従業員数:42人
事業内容:冷間・熱間鍛造用金型および精密プレス金型の設計・製造
雑誌名:型技術 2020年10月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円
内容紹介
型技術 2020年10月号 Vol.35 No.10
【特集】
プレス・鍛造用型材料と表面処理技術
プレス成形や鍛造加工における新しい工法、被加工材、潤滑技術などの進歩により、さらなる高品質・高精度な製品、部品づくりの取組みが進んでいます。これらの取組みを実現するためには、新しい成形・加工や工法を支える金型材料と表面処理が重要な技術となります。
特集では、プレス・鍛造における最新の金型材料と表面処理の技術動向と適用事例を紹介します。
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