グローバルニッチトップ企業、強さの秘密はどこに?浮かぶ3つの成功パターン
経済産業省認定「2020年版グローバルニッチトップ企業100選」として選定された113社。強さの秘密、競争力の源泉はどこにあるのか。各社の技術や製品、ビジネスモデルからは三つの類型が浮かび上がる。キーワードは「専門市場性」「代替不可能性」「模倣困難性」である。
特殊なニーズに応える
収穫した農作物を積んで急斜面を走行するモノレール。ニッカリ(岡山市)が製造する「モノラック」。旧社名「日本刈取機工業」が象徴するように、古くは稲の刈り取り作業や草刈り用の機械を製造してきた同社だが、山あいの急斜面の耕作地で重労働を強いられる収穫後の農作物の運搬作業の省力化を目指して開発されたのが、国内初の農業用モノレール。1966年の初号機誕生から半世紀あまり。農家のニーズに徹底的に応え製品のバリエーションを拡大するとともに、イタリアのブドウ農園など海外にも導入が広がった。近年は災害対策の土木工事や少子高齢化が加速する中山間地域の移動手段としての活用も見込まれている。
極めて特殊な市場で一定の地歩を確立してきたのは、世界で初めて「自動包あん機」を実用化したレオン自動機(宇都宮市)も同様。月餅やピロシキ、スコッチエッグといった世界の食文化に対応し125カ国に展開。世界シェアは5割に上る。
工業分野でも特殊用途や工程を担う装置で、ものづくりを下支えする企業は少なくない。自動車部品用の鋼管切断などに用いる使い切りタイプのコールドソー(常温で使用される丸鋸刃)を製造する兼房(愛知県丹羽郡)、金型や金属部品の基となるプレート(六面体の金属などのブロック)を高精度に加工する専用機械を製造する武田機械(福井市)といった顔ぶれが浮かぶ。
それなくして作れない
市場の専門性、特殊性で異彩を放つ企業がある一方で、完成品に不可欠な部素材について、極めて高いシェアを持ち、サプライチェーン戦略上、欠かすことのできない重要なパートナーとして存在感を発揮する企業もある。
不織布を使った特殊工業用紙メーカーの廣瀬製紙(高知県土佐市)。湿式不織布のパイオニアである同社の名を世界に知らしめたのはアルカリ乾電池用セパレーターだが、近年の競争力を象徴するのが食品や医薬品分野における不純物の分離や除去、排水関連に用いられるフィルター材料。世界シェアの7割を獲得している。装置の性能に直結する製造技術はもとより、競合他社には不可能な3種類の支持体に対応できる点も高い市場シェアにつながっている。
航空機部品や特殊ポンプ製造の日機装(東京都渋谷区)は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の黎明期に新素材で巨大市場参入に挑んだことがグローバルニッチトップ企業としての原点である。世界で初めて開発したCFRP製カスケード(逆噴射装置部品)は航空機の標準仕様として認められ、2大航空機メーカーの米ボーイングと欧州エアバス、両社の主要機種から各国のリージョナルジェットまであらゆる機種で採用され、世界シェアは9割に上る。
他社にはまねできない技術
独自技術や製造方法に磨きをかけ、徹底した差別化戦略を貫くことで、模倣困難な市場を自ら確立してきたグローバルニッチトップ企業もある。
不純物を取り除き、特定の化合物を取り出す際に用いられる分離精製装置で世界シェアの9割を占める日本分析工業(東京都西多摩郡)。溶液を循環(リサイクル)する方式を用いている点に技術の独自性があり、これをベースに大手企業が手がけないニッチな製品開発に特化する姿勢を貫いてきたことが、現在につながっている。
スマートフォン向け電子部品などの超精密金型製造を手がける藤井精工(福岡県鞍手郡)が、医療分野への技術の応用展開を目指し開発した緑内障手術用医療器具。微細針を使って複数の専用具を角膜に差し込む新たな治療法を確立した米国の眼科機器メーカーに供給し、世界30カ国で使用されている。
同社はプレス金型技術を用いて直径0.33ミリメートルの極細管先端部に三次元的に力を加えることでピンセットのような開閉を可能にした。これによって治療技術は確立したものの、専用具の挿入に腐心していた機器メーカー側のニーズに応えたのである。
顧客企業からの厳しい要求水準や技術的な課題、さらには事業環境の変化を乗り越えてグローバルニッチトップ企業としての地位を確立した各社の成功体験。それはさらなる成長へ向けた原動力でもある。