ニュースイッチ

JAXAの旅客機、機体騒音低減への挑戦

JAXAの旅客機、機体騒音低減への挑戦

ベースライン機とフラップ・主脚に低騒音化改造を行った機体の騒音源の比較例 ■ベースライン機

【技術開発段階】

旅客機の離着陸による空港周辺騒音は、ジェット旅客機が登場した1950年代後半に比べると大きく低減してきたものの、航空輸送需要の増加により、特に頻繁に離発着が行われる都市圏の空港を中心に今でも重要な技術課題となっている。そのうち旅客機が空港へ低空で進入する着陸進入時に問題となっているものが「機体騒音」と呼ばれる騒音である。

機体騒音は90年代から低騒音化が停滞している着陸進入時の騒音の原因となっており、着陸のために展開する高揚力装置(スラットとフラップ)と降着装置(前脚と主脚)の周辺で大きく乱れた気流によって発生する風切り音が主な騒音源である。

いずれも安全な着陸に必要な装置であるため、低騒音化が飛行性能や重量、安全性などと相反しやすく、いまだに技術開発の段階にある。

【飛行実証】

このような背景の下、JAXAでは2005年ごろからこの機体騒音の研究に取り組み、15年からは川崎重工業、住友精密工業、三菱航空機3社とともに共同で機体騒音低減技術の飛行実証プロジェクトFQUROH(フクロウ)を開始、19年までに低騒音化の設計基盤となる技術の確立を行った。プロジェクトでは、JAXAの実験用航空機「飛翔」を対象にして、先進的な数値シミュレーションと音響計測を行う風洞試験を組み合わせ、低騒音化のためのフラップ形状と主脚に装着する部品の設計を行い、飛行試験で評価する技術実証を行った。

【実用化に向けて】

図は実証試験結果の典型例であるが、過去に行われた欧米の飛行実証と比べフラップと主脚の騒音を大幅に低減できたことを示している。さらに設計段階と飛行試験それぞれで取得した騒音データは、風洞試験模型のスケール差による違いなどを除けば非常に良く一致していることを確認し、プロジェクトで狙っていた設計の基盤となる解析技術、試験技術を飛行実証によって確立することができた。

現在は、FQUROHの成果を基礎に、旅客機への技術適用に向けて三菱航空機のSpaceJetも対象に研究開発FQUROH+(プラス)を進めている。

そこでは、これまで確立してきた主脚とフラップの低騒音化技術の技術成熟とともに、機体の大きな騒音源でありながら飛行性能や機体構造と低騒音化の両立が難しいスラットの低騒音化技術の確立を目指している。

◇航空技術部門航空システム研究ユニット特任担当役 山本一臣 1988年東京大学大学院博士課程修了後、航空宇宙技術研究所(現JAXA航空技術部門)に入所。ジェットエンジンおよび航空機の空気力学と騒音の研究に従事。2015―19年FQUROHのプロジェクトマネージャ。工学博士。
日刊工業新聞2020年10月5日

編集部のおすすめ