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東京ガス初の女性役員、自称“野生児”の来し方

理系女性役員 均等法第1世代の肖像 #02
東京ガス初の女性役員、自称“野生児”の来し方

写真はイメージ

理系出身でも専門を離れ技術系ゼネラリストになる例は、インフラストラクチャー業界など少なくない。東京ガス初の女性役員、鴫谷あゆみさんもその一人だ。「どうして、なんでと納得するまで相手にかみついてきた」という自称“野生児”の来し方を聞いた。

―男女雇用機会均等法施行の2年後に修士修了で入社、1期生として扱われてきました。
「当社は、大卒社員の半分以上が理系出身だが、研究職に加え技術営業や企画など活躍のフィールドは広い。私は経営工学を学び、勤怠管理システムの開発を皮切りに、大半の時期でプロジェクトマネジメントに関わった」

―壁をどのように乗り越えましたか。
 「辛かった時期は特にない。目の前の課題を必死にやり続けてきた。転機は40歳代半ば。販売チャンネルの再編で、お客さまとの窓口となる関係会社『東京ガスライフバル』を整備するプロジェクトに加わった。それまでの社内のバックオフィス向けとは違う、お客さま第一の営業フロント向けで現場に一から教わった」

―何でも質問攻めにする性格にマッチしましたね。
 「相手には嫌がられるが、目的を自分の言葉に置き換えて理解することは欠かせない。納得すれば全力で取り組め、失敗したら謝ればいいと思う。やらされていると逃げたくなるし、失敗も人のせいにしてしまう。依頼によって動くのではなく、『何のために何をするのか』と基本構想を考えて語ることも身に付いた。いつのまにか自らはめていた枠がここではずれた」

―役員に就任してどう変わりましたか。
 「上の役職に就くと特別に意識しなくても視座が高くなる。一方、IT子会社『東京ガスiネット』の社長となり新たな悩みが生じた。グループの連結利益で考えると、子会社の利益は大問題ではない。しかし生え抜き社員の生活を思えば甘えていられない」

―1期生のキャリアは幸いでしたか。
 「代々の上司は『1期生をつぶしてはいけない』との思いか、私に次々と挑戦させてくれた。自分の仕事がいいかげんだと後輩が困る、とも意識した。今は女性も増えて完全に平等。私はラッキーだったと感じる」

鴫谷あゆみさん
【略歴】しぎたに・あゆみ 88年(昭63)東工大院理工学研究科修士修了、同年東京ガス入社。13年業務革新プロジェクト部長。14年お客さまサービス部長。16年執行役員。18年常務執行役員。愛知県出身、56歳。

【記者の目/“ユニークさ”組織で生かす】
安全第一の保守的な業種において、ユニークな人材は排除されるものと思っていた。が、組織におもしろがる余裕があれば生かせるのだろう。趣味は伝統芸能全般、話し出したら止まらない。社外の交流から得る刺激も取り込んで、鴫谷さんは「社の思考回路にないものを発するのが自分の役目」と思うに至っている。(編集委員・山本佳世子)

日刊工業新聞2020年10月1日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
「辛かった時期はない」という発言は、インタビュアーを務めた私としては驚きだった。自分は「辛いことも、なんとか乗り越えていく」タイプだと思っていて、たとえ同じできごとに直面しても、鴫谷さんは辛いと感じないタフなタイプなのだな、と思った。若い人にはモデルは身近な特定のものだけでなくて、「他の分野や業界に目を広げると、参考になるいろいろなモデルがあるし、きっと自分なりのものをつくっていけるよ」と伝えたい。

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