「オオグソクムシの姿揚げ」はどんな味?昆虫料理にかける熱情の料理人たち(注:虫多め!)
豊富なタンパク源として注目を集める昆虫食ー。今回は中級から上級編。そのままの形を残して、食材や珍味として味わうスタイルが広がりを見せている。害虫など忌避感が先行する昆虫だが、偏見を克服し食文化の一環として市民権を得られるか。メニュー開発に汗を流す事業者を取材し、自慢の料理をいただいた。(取材・中野恵美子、大川藍 )
「将来の昆虫食のスタンダードを提供する」と自信を見せるのは、「いもむしゴロゴロカレー」を手がける昆虫食のentomo(大阪府和泉市)の松井崇社長だ。カレーに使用するのは、シアの木に生息する幼虫、シアワーム。アフリカ西部のブルキナファソからフェアトレードで輸入している。現地でも食されているシアワーム。シアバターや昆虫採集を担う女性の雇用創出につなげるなど社会性の高さを打ち出す。
【関連】カイコのケーキ、コオロギコーヒー...話題の昆虫食はどんな味?記者が実食してみた現在は新型コロナウイルス感染症の影響で輸入が滞っており、当初予定していた発売時期に遅れが出ている。それでも「食の選択肢として昆虫を広げたい」(松井社長)と熱を込める。輸入再開まで、味付けの改良や、他のメニュー開発に奔走する。
発売を前に、開発中のカレーを試食した。イモムシのサイズや、臭みを取り除く下処理方法、ルーに含まれるイモムシ粉末の有無や程度などで差をつけ、用意されたのは6種類。レトルトのパウチを開けると、スパイスの効いたカレーの香りが漂う。イモムシ粉末を含んだルーは、草のような独特な香りを持つ。イモムシが餌とするシアの葉が香りや味に影響するのだという。カレーを混ぜる度に埋もれたイモムシが出てくる。勇気を出して一口目をすくい、頬張る。食感はかみ応えあるエビに近い印象だ。かむ度に葉の香りが広がる。カレーの香辛料で臭みが打ち消され、バランス良い風味が喉を通る。1匹あたり親指くらいの大きさのため、半分か3分の1くらいに刻んだ方が食べやすいかも知れない。
カレーと並行して開発するのが、乾燥させ、チリ味に仕上げたサバクトビバッタだ。殻が硬いため、乾燥させてパリパリとおつまみのように味わう。湯に漬けるとイモムシは白黒のしま模様が浮かび上がる。バッタは殻がふやけてかみ切りにくくなるなど、調理方法によって異なる食感を楽しむことができた。
国内で昆虫食が普及するカギとして、松井社長は「牛肉と同じく、食べる必要性がなくてもおいしく栄養があれば食べるようになる」と確信する。東大阪大学と連携し、災害時の保存食としての可能性や、ピザやクッキーといった多様なメニュー開発を進める。発売が待ち遠しい。
2019年に渋谷PARCO(東京都渋谷区)地下1階のレストラン街にオープンした「米とサーカス」。運営会社の運営会社の亜細亜TokyoWorld(東京都新宿区)広報の宮下慧氏によると「本店の高田馬場店(同新宿区)とコンセプトを分け、若者や訪日外国人をターゲットとする」という。ランチ・ディナーメニューをそろえ、家族連れや友人同士など多様な客層が訪れる。
赤色の照明が光るエントランスをくぐり、店内でまず目を引くのはカウンターを埋め尽くすガラス瓶だ。中には液体に蛇や昆虫、爪をむき出した動物の脚などが漬けられ、味付けされている。
用意されたメニューには鳥獣などのジビエ料理に加え、昆虫の姿揚げなどの珍味から、粉末状の昆虫を用いたハンバーガーまでずらり。中でも人気メニューは「六種の昆虫食べ比べセット」だ。お盆に盛られているのは、タガメ、イナゴ、コオロギ、バンブーワーム、ゲンゴロウ、ハチノコ。
それぞれの虫が今にも動きだしそうな様相だ。その中でもこちらを見つめるタガメに目が行く。殻が硬いため、羽を広げてはさみでお尻を切り落とし、腹部をチョキチョキと切り裂く。日本で最も大きい水生昆虫として知られ、強力な前足を持つ見かけとは裏腹に、何とも甘い匂いを醸し出す。殻の下から出てくる薄黄色の線維を口に入れると、熟した洋梨のような香りが広がる。塩っぱい味付けと絶妙な調和が生まれた。
揚げられたコオロギやバンブーワームは、チップスのようなサクサクとした食感が印象的だ。次から次へと口に運ぶ。そうしている間に登場したのは「オオグソクムシの姿揚げ」だ。駿河湾の深海に生息するという、全長約15cm、多数の足が生える姿はまるで大型ダンゴムシ。昔からどうしてもダンゴムシだけは触れなかった記者は、皿に盛られたオオグソクムシを見て抵抗感を覚えた。
だがここに来てその場を離れるわけにもいかないため、勇気を振り絞って正面を向かせ、顔からかぶりついた。衝撃的な見た目である一方、食感は揚げられた同じ甲殻類のエビに似ている。殻をバリバリとかみしめながらゆっくりと味わった。
六種の昆虫食べ比べに盛られた佃煮風味のイナゴやハチノコは、日本の伝統食を思い出させる。注文したシカのハンバーグ定食のご飯と一緒に食べると、懐かしい味覚がよみがえる。おなかを満たした後には「MUSHIパフェ」や「MUSHIだんご」といったデザートがある。甘味にアレンジされた昆虫も次回挑戦したい。
亜細亜TokyoWorldは毎年秋に食の祭典「昆虫食フェア」を開催している。レストランよりも料理の種類を増やし、昆虫の多様な食べ方を楽しむことができる。現在、新型コロナの影響が心配されるが「栄養価の高さなどを受け、昆虫食が注目を集めている。店内での食事に加え、テークアウトや自動販売機での販売も続ける」と宮下氏。昆虫食のさらなる魅力発信に飛び回る。
大阪を代表する繁華街・心斎橋。近頃、訪日外国人(インバウンド)はめっきり減ってしまったが、上方グルメを堪能できる食堂や居酒屋には明るい光がともり、客足も戻ってきた。その一角に昆虫食を味わえる中華料理店がある。地下鉄長堀橋駅から徒歩約5分、たどり着いたのは本格ギョーザ専門店「人人餃子城」だ。
料理長は中国吉林省出身という本場仕込みの中華料理をそろえる。人気は、種類豊富なギョーザだ。一皿の価格は700円とリーズナブルな点に加え、ジューシーな肉と野菜がスパイスと皮に包まれ、焼き・蒸し・ゆでを選ぶことができる。
その中に発見したのは蚕のさなぎ料理だ。メニューを手に取るやいなや、ビールを片手に注文。最初に運ばれてきたのは、蚕のさなぎの香菜炒めだ。焦げ茶色でしま模様がかった見た目は昆虫さながら。個体が丸ごと野菜に絡められる。まずは一匹箸でつまみ、口に運ぶ。
するとカリッとした食感が味覚を刺激する。油で揚げた殻付きのエビのような感覚だ。「意外といけるんちゃうか」とかすかな手応えを得た。次に皿に盛られたセロリとニンニクを頬張る。さなぎのサクッとしたかみ応えとほのかな殻の苦みが、セロリの深い臭みと香辛料に合わさり、独特の余韻を残す。
ギョーザや海鮮の野菜炒めを堪能した後、締めに登場したのは串焼きにされた蚕のさなぎだ。串が頭からおしりまで、3匹連続で貫通する。初見は何とも不気味な印象。ただ今更抵抗感も尽きたと信じ、持ち手をつかむ。先頭のさなぎにかぶりつき、一気にかみしめる。殻を破ると中身がプリッと躍り出た。
どうやら先に食した香菜炒めのさなぎはあらかじめ揚げられており、ハードルが比較的低いらしい。串焼きは火を通した後粉唐辛子がまぶされているだけで、昆虫食に慣れた上級者向けのようだ。かむ度に命を丸ごといただく実感がわいた。思いのほかうまみが凝縮され、また来店したいと思わせる。満腹も近い頃、白酒『老龍口』で喉を潤した。
(不定期連載)