ビール派生の肥料が甲子園の芝生管理に!会社も設立しちゃうアサヒの「CSV経営」
ビールから派生した肥料が、阪神甲子園球場の自然芝の管理に使われている。肥料を散布した芝は強くなり、ボールが思わぬ方向に飛ぶイレギュラーバウンドを抑える。2019年5月から使用しており、激しいプレーで選手が踏みつけた芝も緑を保っている。
肥料の材料は、アサヒバイオサイクル(東京都渋谷区)が供給している。アサヒビールのビール製造工程で取り除いた酵母の細胞壁が原料だ。芝が丈夫になるのは、細胞壁によって植物が病気に感染したと勘違いし、根を張るから。芝の品質が保たれるので施設管理者は化学肥料の使用を減らせる。これまでに全国のゴルフ場の3分の1に当たる700カ所で採用実績がある。
アサヒバイオサイクルの高崎智子アグリ事業部担当部長は「土壌改良の効果も分かってきた」と驚く。酵母壁が土壌の鉄イオンの働きを促し、悪い菌を抑制する。植物は病気になりにくくなるので、土壌を健全にするための肥料も削減できる。ブドウの収穫を5割増やすなど、多くの農作物で収量アップを確認した。
アサヒグループホールディングスは、ビール酵母で胃腸・栄養補助薬を商品化している。酵母の細胞壁も肥料として事業化しようと17年、アサヒバイオサイクルを設立した。社会価値を生み出して事業を成長させるCSV(共有価値の創造)を実践する狙いもある。CSVを掲げる企業は多いが、新規事業を立ち上げ、会社として独立させた例は少ない。
アサヒバイオサイクルの中原康博アグリ事業部長は「農家に説明しながら出荷を増やしている。完全な黒字とはいえないが、トントンで回っている」と語る。収穫アップと肥料削減は農家への価値提供であり、“CSV経営”が成立しようとしている。
【海外でも販売】
価値創造は将来にも続く。力強く根を張った農作物は長雨や猛暑に強くなるため、気候変動が進行しても食料の安定供給に貢献する可能性を秘めている。収量も増加するので農地開発のための森林破壊も減らせる。国内にとどまらず、海外販売にも着手した。
アサヒバイオサイクルは20年4月、グループの飼料事業と統合し、新体制になった。飼料も乳酸菌飲料「カルピス」の研究から派生しており、抗生物質を使わずに家畜の腸内環境を整える。「農業や畜産といった食の“川上”の社会課題を解決する」(中原部長)と新会社の位置付けを語る。派生品でも社会に貢献すれば、主力製品になれる。