ニュースイッチ

METI

発注先にあると絶対に助かる、3種の樹脂成形法を操るプラスチック製造メーカー

大和化学工業、競争力の裏にある経営理念
発注先にあると絶対に助かる、3種の樹脂成形法を操るプラスチック製造メーカー

最短納期は当日という大和化学工業の製造現場。写真はブロー成形の様子

工業用プラスチック製品を製造する大和(だいわ)化学工業。「ブロー(中空)成形」「射出成形」「真空成形」という、使用する機械も手法も全く異なる三つの樹脂成形を行うことができるのが最大の特徴だ。一つの成形手法のみ手がける樹脂メーカーが多い中、大和化学工業はこれら3種の樹脂成形を実現する体制を徐々に構築し、短納期と高品質の両立を図ってきた。

創業当時から「日勤のみ」

同社は1958年の創業当時から、社員が日勤のみで働き、樹脂成形メーカーに多い夜勤をしてこなかった。背景にあるのは「社員が疲弊しないように」(東田誠次社長)との思い。だが24時間稼働の工場に比べ、日勤だけでは単純計算で生産能力が3分の1になる。大量生産では他社に勝つことはできないため、同社は「他社が断るような細かい成形もやってきた」(東田社長)。数を追い求めるモノづくりではなく、多品種少量に磨きをかけるなど、他の樹脂メーカーとは違う道のりを歩んできた。

東田誠次社長。手にするのは3Dプリンターで成形した金属部品トレーの試作品

同社の受注後の最短納期は、当日という異例の早さだ。社内で3種の樹脂成形ができることに加え、機械の稼働率を70%までに抑えることで、突発的な注文が入っても対応できる余力を残している。樹脂成形の機械は高額のため、多くの企業は投資を回収しようと機械を長時間稼働させる傾向にある。このため「工程をがちがちに詰めている」(東田社長)ため、大和化学工業のようなスピードでは対応できない。

主力の自動車関連向け製品

現在、自動車関連向け製品の売り上げが、全体の70%を占める。その中でも部品搬送用トレーが多く、そのほか、部品の汚れ防止カバーや自動車への搭載部品なども製造している。完成車メーカーのティア1(一次取引先)との取引が多い。

部品が納期通りに供給されなければ、自動車生産ラインの工程はうまく流れない。ライン全体が止まるような事態も起こりえる。ティア1のような自動車部品のサプライヤーにとって、何かあったときにすぐに対応してくれる大和化学工業は心強い存在だ。

今でこそ3種の成形手法を扱えるが、創業時はブロー成形のみを手がけていた。ブロー成形はペットボトルなど、中が空洞の樹脂製品を作るのに使われる成形方法。ポリタンクを例に挙げると、タンク部分はブロー成形で製造し、ふたは射出成形で製造する。

射出成形は、空洞のある製品を作るのには向かない。こういった部品ごとに成形手法の異なる一つの製品を同社が請け負う場合、ブロー成形機しか保有していない同社は、他社に製造を依頼する必要があった。

しかし「けっこうな(仕事)量を頼んだつもりでも少ないと言われ、納期も遅かった」(東田社長)ため、東田社長が工場長だった1990年頃、研究開発を兼ねて射出成形機を1台導入した。

射出成形の様子

社内で射出成形品を手がけられるようになったことで納期の短縮につながったほか、社内で納期コントロールができ、決まった日に製品を求める顧客ニーズを満たせるようになった。また、射出成形品の品質保証も社内でできるようになった。射出成形機の導入で「仕事が一つ増え、二つ増え、射出成形機は現在8台まで増えた」(東田社長)という。

設計開発から製造までワンストップで

真空成形は2010年頃に手がけ始めた。真空成形は、弁当容器や卵のパックなどを作るのに使われる成形方法。ブロー成形や射出成形は材料がペレットなのに対し、真空成形は樹脂シートを材料にするという違いがある。東田社長も「真空成形は(ブロー成形、射出成形とは)異分野で、なかなか手を出せなかった」と振り返る。

真空成形は材料であるシート材の在庫方法を工夫し、短納期を実現している。材質は工業用でよく使われるPP(ポリプロピレン)とPET(ポリエチレンテレフタレート)に限定し、定番サイズの幅のロール材だけを在庫している。

樹脂製品の設計開発や試作、製造までワンストップで手がけられることも同社の強みだ。顧客の要望を聞き、難しいモノも形にする。中には10年探しても作れる会社が見つからず、同社に依頼が来てようやく製品化できたものもあるという。

他社では実現が難しい製品にも果敢に挑む

近年は3Dプリンターを活用し、開発力にさらなる磨きをかけている。試作モデル製作を目的に、約10年前にこれを初導入。東田社長は「図面だけでなくサンプルがあれば、顧客も分かりやすい」とメリットを話す。

1月には同社で3台目となる新たな3Dプリンターを導入した。米国製で、炭素繊維入りの樹脂製品が成形できる。同社が過去に導入した3Dプリンターよりも高精度の部品が作れるほか、成形品はアルミニウム程度の強度があり、金属部品の代わりに使える可能性も見えてきた。

同社は5年後に社長交代を控える。次期社長は2025年4月に就任予定で、現在は東田社長の営業活動に同行し、営業スキルを学んでいる真っ最中。将来に向けた準備が着々と進んでいる。

樹脂製品を通じて顧客満足を追求し続けてきた同社が次に打ち出す成長戦略は日本のものづ くり基盤をさらに強固にすることにもつながる。

【企業情報】

▽所在地=奈良県北葛城郡広陵町南郷986の1▽社長=東田誠次氏▽創業=1958年▽売上高=3億円(2020年3月期)

編集部のおすすめ