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管理業務経ず即フェロー!富士通研が“研究のプロ”育成へ新制度 

富士通研究所(川崎市中原区、原裕貴社長)は、有能な研究者が研究に専念できる新たな人事制度を導入する。従来は研究職である程度経験を積むと管理業務を経て幹部社員となっていたが、こうした業務に就かず研究を究めてフェローまで昇進できるようにする。“とがった人材”には継続して研究に打ち込んでもらい、全体の研究力を高めるのが狙い。10月から順次社内で候補者を選び、研究のプロフェッショナル人材に育てる。

富士通研は外部の人材採用にも積極的で、人工知能(AI)や量子コンピューター分野の高度専門職人材には既存の報酬体系を超えた年収3000万―4000万円の高額報酬を用意する。ただ、トップ級の研究者は世界で争奪戦になっており、人材の確保には苦戦を強いられている。

そのためグローバルな採用活動と並行して、社内でも一般社員や幹部社員から高度専門人材を新たに登用して育成する。特に若い研究者の中には昇進よりも研究に専念できる環境を望む声も強く、優秀な研究者をつなぎ留める狙いもある。

具体的には、研究系とマネジメント系の二つのルートを行き来できる複線型の人事制度(キャリアラダー)を導入。従来は研究力とマネジメント力の両方を伸ばして昇進させていたが、新制度ではそれぞれの能力で処遇し、マネジメントには不向きだが研究能力に秀でた人材を引き上げられるようにする。

従来の主任研究員、主管研究員のマネジメント業務を新設のプロジェクトマネージャーに集約させ、これらの研究員が研究に注力できる仕組みにする。また、現幹部社員の1割程度を占める20―30人の研究者を外部の審査を経て主席研究員、准フェローとして選出し、研究の裁量をより高めて処遇も改善する。最終的には研究のプロフェッショナルとして最高位のフェローに昇格させる。

日刊工業新聞2020年9月1日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
AIなど先端分野の研究者は世界的に不足しており、少ない人材を奪い合っている状況です。その中でいかにして優秀な人材を確保するのか。企業には報酬の見直しだけでなく、働きやすさの改善が求められています。一方で、例えば社員の満足度が高い米グーグルなどでも人材の流出は深刻で、優れた研究者は数年で新たな活躍の場を求めて辞めていく。魅力的な人材は常に渡り歩いています。日本企業は人材の育成に重きを置きがちですが、もっと積極的に“獲得”に動くべきなのかも知れません。

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