試される製造業、コロナ禍が変える設計の方法論
コロナ禍で製造業はサプライチェーンが寸断し、設計製造プロセスが停滞した。今回、顕在化した課題は、日本の製造業の長年の課題でもあった。コロナ禍を機に対策を進め、産業を成長させられるか試されている。
「コロナ禍を機に設計の方法論が変わるかもしれない」と、新エネルギー・産業技術総合開発機構技術戦略研究センター(NEDO―TSC)の岸本喜久雄センター長は期待する。コロナ禍でオンラインミーティングのインフラが整った。製品設計や生産技術など、複数の技術者が一堂に集まらなくても情報交換できる環境が広がりつつある。従来のように同じ物を囲んでの議論は難しい。それでも設計や試作、開発を止めないように、共創的な設計ツールの普及が期待される。こうしたツールや環境に合わせて設計の方法論が変わる可能性がある。
同時に設計や試作の受託ビジネスも影響を受ける。紋川亮主任研究員は「多数の部品を組み合わせてモジュール化するなど、一度に受託する範囲が拡大する」と指摘する。サプライヤーにすり合わせや試作のノウハウがたまりやすくなる。「設計や製造を一元管理し、多品種少量生産に対応できる事業者が競争力を持つことになる」(紋川主任研究員)。
そしてサプライチェーンの冗長化や強靱(きょうじん)化が並行して進む。完成されたモジュールは複数の工場で生産できるように割り当てられ、生産ラインでは自動化が進む。それでも足りない部分を補うため、工場のシェアリングでサプライチェーンの柔軟性を確保する。
NEDO―TSCは、この開発プロセスからサプライチェーンを含む大きな変化が、この2―5年間で進むと予測する。人も機械も求められる能力が変わることになる。本来、余剰人員のデジタル教育や余剰設備の省人化・デジタル化は時間をかけて進める必要があった。紋川主任研究員は「急激な減産が予想されるいまがチャンス」と指摘する。コロナ禍を機に起こる産業構造の変化はこれからが本番になる。