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「コスト上がってもやる」三菱地所が発注先に環境へ配慮した木材調達を求む
三菱地所が建物の基礎工事で使う合板「型枠コンクリートパネル」を、2030年までに100%国産材か環境配慮を示す認証材に切り替える方針を打ち出した。同パネルには、先住民の土地奪取や自然破壊などで調達した南洋材が使われる場合があり、国際非政府組織(NGO)から非難されるリスクがあった。世界的に「ビジネスと人権」への関心が高まる中、国内ビジネス中心の不動産・建設業界でも、自社で直接関与しないサプライチェーン(供給網)上の人権や環境にも配慮する動きが出ている。
型枠コンクリートパネル 国産材・認証材に切り替え
三菱地所は同パネルに使う木材をマレーシアやインドネシアなどで乱伐が問題視される南洋材から、適切に管理された森林資源の活用を証明する「PEFC認証」などを取得した認証材に切り替える。すでに4月から工事の見積要項書にこの方針を記載しており、ゼネコンなどの発注先に協力会社を含めた対応を促している。
同社が工務店や木材問屋にヒアリングしたところ、「国産材・認証材の供給量に不足はないことがわかった」(人権啓発・ダイバーシティ推進室の城所勝臣室長)。問題はこうした環境配慮型の木材は南洋材に比べ割高になってしまうことだが、「コストが上がってもやると経営判断した」(城所室長)。むしろ課題は価格よりも、「大工職人の意識をどう変えるか」(同)という。木材は材質ごとにクセがあり、現場では長年、南洋材のクセに合わせてパネルを使ってきた。新たな木材を使うと、改めてクセを把握する手間がかかる。とはいえ、「食わず嫌いなところがある」(同)ことから、30年の100%切り替えに向け、時間をかけて丁寧に普及を図る方針だ。
不動産大手の動きに連動し、ある大手ゼネコンは「まずは実態を把握する」(ゼネコン関係者)ため、20年度中に同パネルの使用状況を協力会社にヒアリングするという。国産材や認証材がどのぐらい使われているかを聞き、現状を確かめた上で、21年度以降に対応策を検討する方針だ。
同パネルを巡っては、新国立競技場をはじめ東京五輪の施設工事が本格化した2、3年前に、工事で使われているものの一部が先住民の土地を侵害して伐採した南洋材であることを環境NGOが指摘し、社会問題となった。
三菱地所は18年9月に「建設・不動産、人権デュー・デリジェンス勉強会」を立ち上げ、同パネルのように、自社で直接関与していなくても起きてしまうサプライチェーン(供給網)上の人権問題にどう対応すべきか検討を続けてきた。勉強会にはNTT都市開発や東京建物など大手不動産5社と大成建設や清水建設などゼネコン3社の計8社が参加。勉強会を主導した三菱地所が率先して新たな方針を打ち出し、今後、会のメンバーを中心に業界で追随する動きが出る可能性がある。
内需型産業にも世界の潮流
サプライチェーン上の人権問題に詳しい一般社団法人「ASSC(アスク)」(川崎市中原区)の下田屋毅代表理事は三菱地所などの動きについて、「国際的な流れに沿ったもの」と評価する。世界的なファッションブランドの途上国での労働搾取や強制労働への批判などから国連人権理事会は、11年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を策定。これに基づき英国は15年に大企業への人身取引や強制労働の防止策の作成・公開を求める「現代奴隷法」を制定するなど、「世界的に企業の人権対応への関心が高まっている」(下田屋氏)。
ESG(環境・社会・統治)投資の広がりもある。同投資では財務情報だけでなく、環境や社会に与える影響を記した非財務情報も重視する。この中には人権対応も含まれる。
大和証券の山田雪乃チーフESGストラテジストは「人権対応を怠るなどしてESG格付けが下がると、株価も下がる」と指摘する。不動産・建設業界は内需型産業と言われるが、こうした産業といえども、世界的な流れにはあらがえない状況にある。