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SDGs活動の公表で他社や地域からの信頼を得るには?

雑誌『工場管理』連載 町工場でSDGsはじめました 第9回
 最近、仕事や生活の場で「SDGs(エスディージーズ)」という言葉をよく見聞きするようになった。“持続可能な開発目標”と訳されるSDGsは、近年、企業にとって経営戦略上の重要目標となりつつある。生産現場においても例外ではないが、現場にとっての意義や価値は十分に理解されているとはいいがたい。本連載では、とある町工場の夕陽丘製作所のエピソードを通じて、SDGsとは何かから、取り組むプロセス、ポイントを解説していく。

主な登場人物
萬代総務部長:古町工場長の指示でSDGs担当者に。52歳。
古町工場長:取引先の役員からの話でSDGsに興味を抱く。59歳。
燕さん:経理部。工場で最もSDGsに精通する25歳。
妙高生産部係長:生産部の若きリーダー。30歳。

従業員で検討し、SDGs目標を決めた夕陽丘製作所。長岡銀行主催のSDGs勉強会に萬代総務部長が登壇し、地域企業の前で目標を発表した。翌日、萬代部長は経理部の燕さんに様子を報告した。

 萬代「反響がすごかったよ。SDGs活動として取り組みたいことを整理した程度で、目標といえるレベルじゃないのに質問攻めだった」
 燕「従業員の健康増進は身近なことなので、他社の人たちにとっても気づきになったと思います」
 萬代「ゴール12も実践して廃棄物を大幅に削減したいけど方法が見つからないと話したら、魚沼商事さんが今とは違うサイズの材料を探してくれると提案してくれた。うちの工場でつくる部品にぴったりのサイズの材料があれば、端材が少なくなって廃棄物が減る」
 燕「すごいですね。発表してみるものですね」
 萬代「働き方改革も推進したいと話したら、取引先の中越電器産業さんが発注量を平準化し、繁忙期を解消できるように協議したいと提案してくれた。うちの従業員に休日出勤してもらう必要がなくなりそうだ」
 燕「もともとは中越電器産業さんがうちの工場にSDGsに取り組んでほしいと話してきたんですよね。中越電器産業にSDGs活動が認めてもらえたということですよ」
 萬代「そういえば粟島農園さんから、あるロボットを開発してほしいと依頼が来たんだ。『SDGsに取り組む夕陽丘製作所だからお願いしたい』といわれたら断れないよ。早速、みんなに相談してみよう」

次回、夕陽丘製作所はSDGsを活用して新規事業のロボット開発に挑む。

<解説 コミュニケーションによって社外評価を確認し、“SDGsウォッシュ”を防止>

SDGsの取組みでは「コミュニケーション」が大事です。SDGsに通じる自社の活動や目標を社外に公表し、意見や感想を聞くことをコミュニケーションといいます。

SDGsの取組み方に決まったルールはありません。自社の得意分野を17ゴールのどれに当てはめるのも、ターゲットを解釈して自社なりの目標にするのも自由です。ただし、あまりにも自己流だと独りよがりになります。外部に向けて発表し、評価・共感してくれる人がいれば独りよがりではないとわかります。逆に誤解やネガティブな反応があると、不適切な目標設定をしていたり説明不足だったりすることに気づくはずです。

今、大企業の間でも「SDGsウォッシュ」が課題として浮上しています。その意味は「やっているふりのSDGs」と理解してください。SDGsのアイコンをホームページに掲載して取り繕っただけで、SDGsに取り組む理由を訊ねても「政府が推進しているから」といった程度の答え。他にも「良い社会をつくるため」「ビジネスチャンスだから」といった浅い回答もあります。

取材でも感じることですが、パターン化された模範回答だと共感できません。それにSDGsには未来像が示されています。「SDGsを推進する」と表明した以上、発信にも目標があるべきだと思います。「未来を考えた時、わが社の課題はこれ。だからこういう目標をつくりました」という個性があると、社外から良い反応があるはず。SDGsウォッシュを防げます。

コミュニケーションの効果に話を戻すと、SDGs活動の目的は社会(取引先など)に信頼してもらうことです。活動を伝えないと評価対象になりません。取引先や学生、地域への説明、ホームページへの掲載、会社案内など発信手段はいくつもあります。反応を知る努力もしてみてください。

展示会もSDGsの取組みを発信するチャンス

発信によって連携が生まれる効果も期待できます。具体的な社名は控えますが、勉強会で知り合った会社同士がSDGsの合同勉強会を開き、仕事でも取引が始まったケースを聞いたことがあります。

ちなみに夕陽丘製作所の事例で取り上げていた廃棄物削減は、「マテリアルフローコスト会計(MFCA)」です。廃棄物の発生が金額的に大きい工程を発見して改善し、資源のムダと製造費の低減を同時実現するのがMFCAです。夕陽丘製作所は、発表をしたことで取引先との連携によってMFCAを実践できます。1社では限界があっても、他社と組むと突破口が見つかることがあると思います。

ポイント
●公表によって意見、評価、反応を知るとSDGsウォッシュを防げる
●発信によって取引先や地域からの信頼を獲得できる
●発表によって連携が生まれ、SDGs活動が進展する

松木 喬(まつき たかし)
 日刊工業新聞社 第二産業部 記者、編集委員
2009年から環境・CSR・エネルギー分野を取材。現在、日刊工業新聞「SDGs面」(毎週金曜)の取材・編集を担当。主な著書に『SDGs 経営“社会課題解決”が企業を成長させる』(日刊工業新聞社)。新潟県出身。


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工場管理 2020年9月号  Vol.66 No.11
 【特集】今ここにある危機をどう乗り切るか 長寿企業に学ぶ 持続可能な経営と改善の極意

企業は経済変動や自然災害などのリスクに翻弄され、失敗を繰り返しながらも、経営を続けていかなければならない。まさに今、新型コロナウイルスという未曽有の事態に直面し、経済悪化の大きな波が押し寄せている。この危機をどう乗り越えていけばよいのか。長い歴史の中で数々の難局や危機的状況を乗り越えて発展してきた長寿企業に、打開策のヒントを学びたい。
 特集では、半世紀以上続く企業の経営上のターニングポイントを振り返り、そこから得た教訓を考察。危機や失敗をどのように乗り越え成長の礎を築いてきたのか。そして、その中で取り組んできた改善活動が従業員の成長やモノづくり力に寄与してきたのか。各社の事例から持続可能な経営と改善の極意を見出す。

雑誌名:工場管理 2020年9月号
 判型:B5判
 税込み価格:1,540円

※最終回は9月25日頃公開予定

松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
SDGsを参考とした取り組みを始めたら、誰かに伝えたくなりませんか。私たちも取材を通して多くの読者に企業のSDGs活動を発信したいと思っています(新聞に載った企業の従業員のやる気向上、取引先からの評価向上に役立ちたいです)。発信するとしたら、自社なりのストーリーで。CSRの専門用語を使う必要はないと思っています。

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