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SDGsに取り組まないと社会からの信頼を失う?

雑誌『工場管理』連載 町工場でSDGsはじめました 第3回
 最近、仕事や生活の場で「SDGs(エスディージーズ)」という言葉をよく見聞きするようになった。“持続可能な開発目標”と訳されるSDGsは、近年、企業にとって経営戦略上の重要目標となりつつある。生産現場においても例外ではないが、現場にとっての意義や価値は十分に理解されているとはいいがたい。本連載では、とある町工場の夕陽丘製作所のエピソードを通じて、SDGsとは何かから、取り組むプロセス、ポイントを解説していく。

前回からの登場人物
萬代総務部長:工場長の指示でSDGsの情報を収集中。ISO14001を構築した経験も。52歳。
古町工場長:取引先の役員からの話でSDGsに興味を抱く。理系大出身の59歳。
燕さん:入社3年目の経理部社員。工場で最もSDGsに精通する25歳。


SDGsへの取組みを始めることになった夕陽丘製作所。インターネットで集めた情報を古町工場長に報告した萬代総務部長は、入社3年目の燕さんに声をかけられた。

萬代「SDGsには取引先が増える営業効果が期待できると説明したら、工場長に『すぐにやれ』と言われたんだよ」
 燕「それって、本当にうまくいってる先進事例ですよ。もっとSDGsの本質を理解するべきです。中途半端な知識だと、社会から信頼を失うリスクもあるんですよ」
 萬代「社会からの信頼を失う? なんか物騒だね……」
 燕「ちゃんとSDGsを知ればわかります」
 萬代「実は17ゴールしか読んでいなくて……。燕さん、詳しそうだね。長岡銀行さんからSDGsを教えてもらったと言っていたけど、どうして銀行が関係があるんだ」

そう聞かれた燕さんは経理部に戻り、長岡銀行からもらった資料を持って再び総務部へ。萬代総務部長に資料を示しながら、説明を再開した。

「銀行は私たち取引先に“サステナブル”な企業になってほしいんです」
 萬代「サステイナブル?」
 燕「長続きする企業でいてほしい、ということです。特に地銀だと、地元の企業が減り続けるとお金を貸す先がなくなって銀行経営が成り立たなくなりますよね。だから、SDGsを活用して長続きする企業になってほしいんです」
 萬代「うちは老舗だ。これからも長続きするつもりだし、業績も問題ない」
 燕「もちろん業績も大事です。『長続きする』という意思表示みたいなものがSDGsなんです」

 SDGsに詳しい社員の存在に驚きを隠せない萬代総務部長。燕さんを中心に夕陽丘製作所のSDGsは本格始動する。


<解説 ターゲットは「リスクのチェックリスト」>

SDGsが多くの大企業に受け入れられた理由に、「ビジネスチャンス」があると言われます。環境省の『SDGs活用ガイド』にも、「SDGsによってもたらされる市場機会の価値は年間12兆ドル(約1,300兆円)」と解説されています。SDGsに取り組むと巨大市場への挑戦権が得られます。前回でも新規顧客を獲得できた事例を紹介しました。

ただし、燕さんが指摘したようにリスクもあります。経営に大打撃となる法令違反というよりも、社会や取引先から信頼を失うようなリスクです。SDGsには評判を高める効果と、評判を下げるリスクが表裏一体で存在しているといえます。

リスクを知るには169あるターゲットを示す文章を読む必要があり、燕さんが言う「本質」がそれらの中にあります。たとえば、ゴール8のターゲットに「若者や障害者を含むすべての人において、完全かつ生産的な雇用および働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する」とあります。堅い言い回しですが、前半は「人間らしく働ける職場にする」と解釈しても良いでしょう。「人間らしい」も耳慣れない言葉ですが、「人間らしくない」と置き換えると理解しやすいですよね。たとえば長時間労働のことです。

社員に長時間労働(人間らしくない仕事)を強制していると「ブラック企業」として悪評が立ちます。そんな企業からは人がいなくなり、長続きしなくなります。逆に人間らしく働ける職場なら社員はやりがいを持て、地域からも高評価が得られます。

他にも取り組まないと評価が下がるターゲットがあります。すべてが経営に置き換えられるわけではありませんが、ターゲットを「リスクのチェックリスト」として活用してみてはどうでしょうか(表)。

また、SDGsに取り組む企業はリスクが発生しにくい会社という言い方もできます。悪い評判がない会社は取引先から信頼され、人材も集まりやすく、長続きする条件が整います。ですので「『長続きする』という意思表示みたいなものがSDGs」(燕さん)なんです。

地銀の話題が出たので事例を紹介します。多くの地銀がSDGsの名前がついた金融メニューをつくり始めています。SDGsに取り組むと低い金利で融資が受けられるメニューを持つ地銀もあり、SDGsを知っている、知らないで資金調達に差が出ます。

横浜銀行はSDGs商品の利用企業を対象に、SDGs関連情報を提供しています。また神奈川県の取組みである「かながわSDGsパートナー」への登録支援もしています。SDGsに関心がある企業ほど、活動を応援してもらえます。

ポイント
●SDGsには評価を高めるプラス効果、評価を落とすマイナス効果が表裏一体
●SDGsへの取組みは、自社が「長続きする」という意思表示
●SDGsの理解度によって資金調達に差が出てくる

松木 喬(まつき たかし)
日刊工業新聞社 第二産業部 記者、編集委員
2009 年から環境・CSR・エネルギー分野を取材。現在、日刊工業新聞「SDGs面」(毎週金曜)の取材・編集を担当。主な著書に『SDGs 経営“社会課題解決”が企業を成長させる』(日刊工業新聞社)。新潟県出身。

工場管理 2020年3月号  Vol.66 No.04
【特集 】いざという時に慌てない!技術・技能伝承を日常化する仕組みづくり
 技術・技能伝承は中小・大手ともに喫緊の課題だが、実践に向けた取組みは普段の業務に追われて後回しになりやすく、熟練者の退職や人事異動などが現実となって慌てるケースは少なくない。こうした事態に陥らないためには、技術・技能伝承を確実に行う仕組みを社内に構築し、普段から取り組む業務と捉えて進めていく必要がある。昨今注目される技術・技能伝承向けの新たなAI・IoT製品もこうした堅固な地盤の上でこそ有効なツールとなり得る。特集では、技術・技能伝承に日常的に取り組むための仕組みのつくり方や具体的な伝承の進め方、さらには技術・技能伝承の核心ともいえる「暗黙知」の管理法について事例とともに紹介する。


雑誌名:工場管理 2020年3月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円


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※第4回は3月25日頃公開予定
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「ビジネスチャンスだ」とばかり伝えてきた自分への反省もこめて書きました。業績面で即効薬みたいにSDGsが言われますが、会社を長続きさせることが目的であって、SDGsは手段にすぎません(これは沖大幹先生の指摘)。

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