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スポーツに音楽ライブや演劇も…Bリーグチェアマンが再考する「チケット単価×観客数」

リアルとバーチャル融合の可能性

【コロナ時代の観戦再考】

予定通りなら今ごろ、東京五輪・パラリンピックで日本中が盛り上がっているはずだった。新型コロナウイルスの影響で延期となったが、2021年は無事に開催されることを祈るばかりだ。

コロナ対策で自粛が広がりオンラインでの営業や会議が日常となった。その半面、熱量を感じさせるものの価値、日本を元気にする存在の意義は高まっただろう。スポーツには人に感動、勇気、エネルギーを与える力があるはずだ。プロバスケットボール「Bリーグ」のクラブも大なり小なり、地域のシンボリックな存在として生きている。スポーツが停滞すると地域のエネルギーにも影響する。コロナが収束し、試合を開催できる日常が戻ってきたら、日本全体の元気に貢献したい。

とはいえ、感染リスクは消えない。場合によっては入場者数の制限や無観客での試合開催もあり、チケット収入に依存したビジネスモデルでは脆(もろ)い。コロナ時代における視聴のマネタイズ(収益化)も再考しないといけない。

その点、テクノロジーはスポーツビジネスを大きく変えるポテンシャルがある。視聴においても、今までありえなかったことを起こす可能性がある。すでに、Bリーグはテクノロジーがもたらす衝撃の片鱗(へんりん)を経験済みだ。

18年に、オールスターゲームの会場である熊本と東京を通信回線で結び、次世代型ライブビューイングを初開催した。熊本のコートで選手が走る音、靴が擦れる音、ボールをつく音を伝送し、振動とともに東京会場で再現した。熊本の歓声も、沸き起こった方向まで再現して東京で流した。東京のファンは巨大スクリーンと臨場感のある音と振動で盛り上がった。まさにスポーツの新しい世界だ。東京のチケットは熊本より価格が高かったのに完売した。

【5Gで別会場に生伝送】

登場した第5世代通信(5G)を使えば、当時よりも音や振動を遅延なく忠実に伝送できる。仮想現実(VR)や拡張現実(AR)も駆使すれば、躍動感のある選手の映像を目の前に映し出せる。自分の好きな選手を表示できたり、その選手だけを追いかけたりできる。バーチャルな映像にCMも映し、スポンサー価値を高めることもできるだろう。

これだけのことが可能となれば、実際の試合会場に行かずに別会場でも観戦を楽しめる。クラブのチケット収入は基本、ホームゲーム(主催試合)だけ。アウェーゲームは対戦クラブの収入だ。アウェーゲームを5Gで中継するライブビューイング会場を用意すれば地元ファンを集客できる。クラブはアウェーゲームでも収入を得られ、スポーツビジネスにおける革命となるだろう。

もちろん5G時代になっても、リアルな会場に足を運ぶ人はいなくはならない。ただ、リアルが好きなファンに「バーチャルもいいんだ」と言ってもらえるレベルになれば、すごいことだろう。

【巨大な箱物整備不要に】

新しい観戦スタイルの登場でアリーナ(競技施設)のあり方も問い直される。これまでは“観客動員至上主義”で収容人数が多いアリーナを作り、観客を入れることが収益を高める鉄則だった。音楽ライブも演劇も同じで「チケット単価×観客数」が大事だ。

しかし、会場に足を運ばなくてもよい環境が整うと、必ずしも大きなアリーナが必要でなくなる。いわゆる“箱物”の時代の終わりだ。大都市以外にもBリーグのクラブはある。今までのように人口減少に直面する行政に大きなアリーナを要求し、税金負担を強いることは無理がある。未来の子どもたちにツケを残すことにもなる。

テクノロジーである程度のことができたとしても、会場で味わうリアルな熱気や熱量に勝るものはない。求めるべきはリアルとバーチャルのハイブリッド、融合だ。私たちはコロナ危機を経験し、ハイブリッドにチャレンジしなければならない状況に置かれた。Bリーグはプロスポーツとして若い。だからこそ新しいことに挑戦していく。

【略歴】島田慎二/しまだ・しんじ 93年(平5)日大法卒、同年マップインターナショナル(現エイチ・アイ・エス)入社。10年リカオン設立。12年千葉ジェッツふなばし社長、19年会長。20年Bリーグチェアマン。全日本テコンドー協会理事。新潟県出身、49歳。
Bリーグの公式サイトから
日刊工業新聞2020年8月3日

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