ニュースイッチ

料理教室にスマホ運動会!チケット販売急減のスポーツ界はオンラインで収益模索

料理教室にスマホ運動会!チケット販売急減のスポーツ界はオンラインで収益模索

ファンサービスの一環で投げ銭システムに挑戦(大阪エヴェッサ昨年のリーグ戦=同チーム提供)

コロナ禍でスポーツ界が揺れている。収益の柱であるチケット収入が大幅に減少し、新しい収入源を模索する動きが活発化。ニューノーマル(新常態)に向け「みる」スポーツはモバイル端末などへの配信が期待されるが、新しくてもノーマル(日常)と変わらない。観戦のような特別な体験でないとコンテンツやサービスの価値を上げにくい。オンラインでスポーツをいかに新しい形に昇華させるか。各社の取り組みを追った。(小寺貴之)

プロバスケ選手、食事教室配信・日常コンテンツ化

「シーズンが始まっても観客の半減や無観客試合があり得る。チーム経営のため、選手もコーチもスタッフも新しい手を打たなければならない。チーム一丸となってやっていく」―。大阪エヴェッサ(大阪市中央区)の阿部達也ゼネラルマネージャー(GM)はこう気を引き締める。ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)は、10月2日に開幕予定だ。野球やサッカーなど他のプロスポーツの動向を見ながら、新しい観戦体験を発信していく。

チームの収入の柱は試合の観戦チケットだ。無観客試合ならチケットは売れない。ファンと選手の交流イベントも密にならないよう接触を控える工夫が必要になる。そこでグッズ販売や試合中に選手におひねりを贈る「投げ銭システム」に挑戦している。実際に投げ銭を昨シーズンの試合で試した際は、「収入の柱とまではいかないが予想以上に集まった」と、経営戦略室の桜井亮シニアマネージャーは振り返る。

ファンクラブ会費で料理教室などのファンサービスも実施。7月には若手選手のオンライン料理イベントを開いた。プロ選手の簡単で栄養価の高い食事をビデオ会議システムでファンと一緒に作る。ファンにとっては試合で躍動する選手のプライベートな一面を垣間見ることができる。

課題はオンラインのコンテンツ過多だ。桜井シニアマネージャーは「ユーチューバーや一般の方が毎日のように配信している。そこに選手が練習や試合の合間を縫って配信しても数に埋もれる可能性がある」と懸念する。

チームの収入源は、その場、その時でしか見られない生観戦や選手と一緒に楽しむ特別な体験だった。いつでも見られるコンテンツよりも、特別な体験が高い付加価値となり経営を支えてきた。この特別な体験がコロナ禍で妨げられている。

プロのスポーツ選手は生き方でさえ注目される。チームにとってコーチや栄養管理士、フィジカルトレーナーなど選手を支えるすべての要素が財産。スマートに提供すれば新しい“商品”になる。阿部GMは「苦しい時に新しいことに挑戦。この姿勢を地域と一緒になって発信していきたい」と力を込める。

中村浩陸選手(右)の料理教室イベント配信(大阪エヴェッサ提供)

ジムトレーナー、アスリートの自主トレ管理

スマートフォンの計測アプリケーション(応用ソフト)のように、自宅で運動データをとり、リモートで指導するツールも整いつつある。

スポーツ分野向けのセンサー・ソフトウエアの開発を手がけるスポーツセンシング(福岡市南区)は、ジムトレーナー向けに選手のバイタルデータや運動データをリアルタイムに計りながら指導する多人数ビデオ対話システムの開発を進める。トレーナーは心拍数など、選手の心身状態を把握しながら運動負荷を調整できる。

沢田泰輔社長は「スマートウオッチなどのセンサーは節電のため計測データを間欠的にしか送らない。リアルタイムな状態把握が指導には重要」と説明する。月内にも試作版の提供を始める。

これに先立ち、選手のフォームを分析するスマホアプリを期間限定で無償提供した。ゴルフスイングやサッカーのシュートなどをスマホで撮り、その場では遅延再生でフォームを確認。録画して複数の動きの比較やコマ送りで分析できる。

コロナ禍で人が集まる機会を減らさざるを得ない。沢田社長は「チームで集まる場では戦術や連携の練習に費やし、フォーム修正や身体作りは自主トレーニングが担っていく。この流れはプロだけでなく学生などユース(育成年代)スポーツへ広がっていく」と展望する。

運動会が進化、スマホの前でハッスル

山口情報芸術センター(YCAM、山口市)と運動会協会(横浜市都筑区)などは、5月にオンラインの運動会を開いた。パソコンやスマホの前でスクワットをしたり、ポーズをとったりと全力で汗をかく。開会式や競技など、一連の運動会を再現した。

同協会の犬飼博士理事は「リアルな運動会にリモート参加するなど、リアルとオンラインが融合した新しい形の運動会に発展していく」と説明する。

同イベントは新しい運動会種目を開発することにも着目。筋トレの回数やタイムをリレー方式で競ったり、家にある本や生活用品でしりとりをするなど、ゲーム要素を盛り込める。

西翼理事は「一般の運動会とまったく状況が違うが、新しい種目をつくって体を動かして楽しむ。この基本的な営みはどこでもできる」と力を込める。徒競走のような100年続く種目を考案することも可能だ。

バスケやサッカー、ラグビーなどさまざまなプロスポーツ選手が自分の得意種目で一緒に参加できれば、新しいスポーツの形にも発展が期待できる。

5月のイベントは「第5回未来の山口の運動会」として開かれ、種目開発に20人、オンライン運動会に30人が参加した。

新種目をつくり、リモートで楽しむ(YCAM提供)

YCAMの山岡大地エデュケーターは「地域や企業と連携して開いていきたい」という。例年は山口市のイベントのため、地元からの協賛に支えられてきた。今回は実際に東京の企業からも協賛を得た。

また、運動会屋(東京都渋谷区)は、レバレッジ(同)とオンライン運動会を開いている。玉入れのように制限時間内に靴下を何枚重ね履きできるか競う競技や、借り物しりとりなどを競技化している。運動会屋の米司隆明社長は「自宅とつなぐため生活感が垣間見える。会社で開くと同僚の以外な一面が見えて距離が縮まる」と説明する。

運動会屋はコロナ禍で運動会イベントの売り上げがゼロになった。オンライン運動会はビジネスモデルを検討中だが、地域や企業と連携してイベント運営事業を広げていく。「オンライン運動会は海外や病室など、さまざまな場所から参加でき、言葉の壁の問題も小さい。しっかりと磨いていけば、世界に広げていける」と展望する。

追記

動画配信などのニューノーマルは、新しくても所詮は日常(ノーマル)になってしまいます。特別な体験でないとコンテンツやサービスの単価を上げ難いです。サブスクでもうかるのがプラットフォーマーだけという状況にはならないでほしいところです。スポーツチームのスポンサー集めも変化しています。現在は企業向けの観戦チケットを配りつつスポンサーを探していますが、スポンサーと一緒にコンテンツ開発をしていくことになるはずです。

例えば食品メーカーとコラボしてアスリート志向のメニューを作ったり、運動イベントのお弁当にしたり、オンライン運動会でキャラ弁を自慢するようにコンビニのカレーにひと味加えてアレンジ競技種目にすることも考えられています。地域の企業、地元の食材、いろんな活用があり得ます。例えばお弁当開発オンライン競技会など単体だど、地味で集客が難しいかもしれません。ここにアスリートやファンクラブメンバーが入ってくるとイベントのベースとなる熱量が上がります。好きな選手とよく食べ、よく遊び、よく飲む。こんなことはリアルでは難しかったです。オンラインなら適度な距離で大規模に実施できる可能性があります。

小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 スポーツチームのトレーニングや食事、メンタルケアなどアスリートに提供されてきたノウハウ・リソースも売り物になります。それを支える配信インフラとして、映像だけでなくバイタルやモーションなど、さまざまなデータをリアルタイムにやり取りできるようになります。既にあるツールでも、オンラインに集まって新しい運動種目を開発したり、一緒に運動を楽しむことが可能です。その中心にアスリートがいればいいなと思います。アスリートの引退後の就職問題だけでなく、マイナースポーツにも新しい収入をもたらすことができるのではないかと思います。

編集部のおすすめ