出生前診断ー正しい情報を知ることの意義を、あなたはどう考える?
晩婚化・晩産化で先天異常のリスク高まる
欧米にくらべ家事・育児を担う割合が高いと言われる日本の女性。家庭での食生活や衛生管理を支え、家族の中心となっている日本の女性たちは、家族を優先し、時間的な理由から医療サービス受診を抑制しがちな傾向にある。
近年、晩婚や晩産化が進んだことなどから「胎児の先天異常」のリスクが増大し、妊娠中の不安に悩む夫婦が増えている。こうした悩みに直面する夫婦に対し、医療はどうあるべきか。その一例として、赤ちゃんとその両親のために「出生前診断」に向き合うある女性医師の取り組みを紹介する。
「出生前診断」という言葉を聞いたことがある人は増えているだろう。妊娠中に胎児の病気や先天異常の有無を調べる検査として広く知られているのは、2013年に導入された新型出生前診断NIPT(母親の血液から胎児の染色体数異常を調べる検査)や、その確定診断に用いられる羊水検査など。
羊水検査の実施数は2013年にはじめて2万件を超え、社会の関心も広がっている。こうした背景にあるのが、出産年齢の高齢化。内閣府の資料によると、女性の初婚年齢と出産時の平均年齢はいずれも高くなる傾向にあり、出生数全体に占める高齢妊娠(35歳以上)の割合は、約27%(2013年時点の人口動態統計=厚生労働省)に達している。
出産する年齢が高くなると、先天異常を持つ子どもが生まれる確率も高くなる傾向があることが分かっており、何らかの染色体数異常を持った子どもが生まれる確率は、母親が20歳のときと比べて、40歳では8倍にも高まる。
しかし、先天異常の要因はさまざまで、ダウン症など染色体数の異常によるものは全体の4分の1に過ぎない。残りは、NIPTなどのスクリーニング検査あるいは絨毛検査・羊水検査だけでは発見できないもので、母親の年齢に関係なく発症するリスクがある。ここに、超音波検査による画像診断とその他の診断・検査を組み合わせて行う意義もある。
知ることの意義
胎児の状態を正しく知ること。それはどのような意味を持つのか。
“胎児診ずして、胎児診断あらず”―日本で初めての胎児診断専門施設「クリフム夫律子(ぷぅ・りつこ)マタニティクリニック臨床胎児医学研究所(以下、クリフム)」を大阪に構える夫律子医師は、胎児を目で見ることの必要性を唱える。
「出生前診断が対象とする先天異常は、多岐にわたります。それらが血液検査だけでわかるのかと言えば、そうではありません。もちろん、染色体の確定診断は、絨毛検査や羊水検査によるところが大きいと思いますが、先天異常は必ずしも染色体数異常をともなわずに形態に表れてくることも多く、画像で確認することができる超音波画像診断は非常に大きな役割を果たします」(夫医師)。
“Fetus First(胎児が一番)”は、夫医師がモットーとして掲げている言葉。そのため同院では、まず胎児の画像を夫婦そろって見ることから診察をはじめる。「モニターに映し出される赤ちゃんを見ると、『ああよかった、赤ちゃん生きてますよね』 とお母さんが言います。赤ちゃんが生きているかどうかさえ、妊娠初期は自分で感じることができない。赤ちゃんを目で見て『ああ、こんなに頑張っているね』と言ってあげられる。それは赤ちゃんが鮮明に見えるからこそ出てくる言葉なんです」(夫医師)
画像診断の役割は、医学的な精度を高めることと親子の絆
夫医師は、出生前診断における画像診断の役割は大きく二つあると言う。ひとつは医学的な診断の精度を高めること。もうひとつは、親子のボンディング(結びつき・絆)。「赤ちゃんの顔、手、動き。こうしたものを目にすることでより身近に感じて、(親としての責任を)自覚する瞬間だ」と語る。
超音波画像診断技術は、2Dから3D、そして時間経過に沿った動きがわかる4Dへより高精細・高機能なものに進化している。「ほとんどの診断は2Dで行うことができますが、3Dなら、それをいっそう判りやすく客観的に見せることができます。ここにこういう異常があるということがお母さんにもはっきり解り、納得することができます。これはぼやけた画像ではだめですね」と夫医師。
「わたしはよく“Maybe診断”と呼ぶのですが、『~かも知れません』というはっきりしない診断では、患者さんは不安になるんです。そんな不安を抱えた患者さんも、詳細を目で見てはっきりとした診断・病名がついてくると、(やっぱりそうなんだと)落ち込むよりも、泣きながらでもすっきりとした表情になられます。だからといって赤ちゃんの状態が変わるわけではありませんが、わからなかったことが判るということが、お父さんお母さんの非常に大きな『何か』を満たしているんだと感じとれます」(夫医師)。まさに、Value of Knowing(知ることの意義)のひとつのかたちだ。
近年、晩婚や晩産化が進んだことなどから「胎児の先天異常」のリスクが増大し、妊娠中の不安に悩む夫婦が増えている。こうした悩みに直面する夫婦に対し、医療はどうあるべきか。その一例として、赤ちゃんとその両親のために「出生前診断」に向き合うある女性医師の取り組みを紹介する。
「出生前診断」という言葉を聞いたことがある人は増えているだろう。妊娠中に胎児の病気や先天異常の有無を調べる検査として広く知られているのは、2013年に導入された新型出生前診断NIPT(母親の血液から胎児の染色体数異常を調べる検査)や、その確定診断に用いられる羊水検査など。
羊水検査の実施数は2013年にはじめて2万件を超え、社会の関心も広がっている。こうした背景にあるのが、出産年齢の高齢化。内閣府の資料によると、女性の初婚年齢と出産時の平均年齢はいずれも高くなる傾向にあり、出生数全体に占める高齢妊娠(35歳以上)の割合は、約27%(2013年時点の人口動態統計=厚生労働省)に達している。
出産する年齢が高くなると、先天異常を持つ子どもが生まれる確率も高くなる傾向があることが分かっており、何らかの染色体数異常を持った子どもが生まれる確率は、母親が20歳のときと比べて、40歳では8倍にも高まる。
しかし、先天異常の要因はさまざまで、ダウン症など染色体数の異常によるものは全体の4分の1に過ぎない。残りは、NIPTなどのスクリーニング検査あるいは絨毛検査・羊水検査だけでは発見できないもので、母親の年齢に関係なく発症するリスクがある。ここに、超音波検査による画像診断とその他の診断・検査を組み合わせて行う意義もある。
知ることの意義
胎児の状態を正しく知ること。それはどのような意味を持つのか。
“胎児診ずして、胎児診断あらず”―日本で初めての胎児診断専門施設「クリフム夫律子(ぷぅ・りつこ)マタニティクリニック臨床胎児医学研究所(以下、クリフム)」を大阪に構える夫律子医師は、胎児を目で見ることの必要性を唱える。
「出生前診断が対象とする先天異常は、多岐にわたります。それらが血液検査だけでわかるのかと言えば、そうではありません。もちろん、染色体の確定診断は、絨毛検査や羊水検査によるところが大きいと思いますが、先天異常は必ずしも染色体数異常をともなわずに形態に表れてくることも多く、画像で確認することができる超音波画像診断は非常に大きな役割を果たします」(夫医師)。
“Fetus First(胎児が一番)”は、夫医師がモットーとして掲げている言葉。そのため同院では、まず胎児の画像を夫婦そろって見ることから診察をはじめる。「モニターに映し出される赤ちゃんを見ると、『ああよかった、赤ちゃん生きてますよね』 とお母さんが言います。赤ちゃんが生きているかどうかさえ、妊娠初期は自分で感じることができない。赤ちゃんを目で見て『ああ、こんなに頑張っているね』と言ってあげられる。それは赤ちゃんが鮮明に見えるからこそ出てくる言葉なんです」(夫医師)
画像診断の役割は、医学的な精度を高めることと親子の絆
夫医師は、出生前診断における画像診断の役割は大きく二つあると言う。ひとつは医学的な診断の精度を高めること。もうひとつは、親子のボンディング(結びつき・絆)。「赤ちゃんの顔、手、動き。こうしたものを目にすることでより身近に感じて、(親としての責任を)自覚する瞬間だ」と語る。
超音波画像診断技術は、2Dから3D、そして時間経過に沿った動きがわかる4Dへより高精細・高機能なものに進化している。「ほとんどの診断は2Dで行うことができますが、3Dなら、それをいっそう判りやすく客観的に見せることができます。ここにこういう異常があるということがお母さんにもはっきり解り、納得することができます。これはぼやけた画像ではだめですね」と夫医師。
「わたしはよく“Maybe診断”と呼ぶのですが、『~かも知れません』というはっきりしない診断では、患者さんは不安になるんです。そんな不安を抱えた患者さんも、詳細を目で見てはっきりとした診断・病名がついてくると、(やっぱりそうなんだと)落ち込むよりも、泣きながらでもすっきりとした表情になられます。だからといって赤ちゃんの状態が変わるわけではありませんが、わからなかったことが判るということが、お父さんお母さんの非常に大きな『何か』を満たしているんだと感じとれます」(夫医師)。まさに、Value of Knowing(知ることの意義)のひとつのかたちだ。