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黒鉛電極2強の昭和電工と東海カーボン、大型M&Aも需要減で早くも試練

黒鉛電極2強の昭和電工と東海カーボン、大型M&Aも需要減で早くも試練

需要環境が悪化している黒鉛電極

鉄鋼生産に使う「黒鉛電極」を稼ぎ頭としていた昭和電工と東海カーボンが試練の時を迎えている。両社は高品質品で世界2強。黒鉛電極の急速な収益悪化に加え、他の事業も新型コロナウイルス感染症拡大による世界経済低迷の影響を受けた。両社は黒鉛電極依存からの脱却を目指し、大型M&A(合併・買収)を実施したばかり。構造変革は待ったなしだ。(梶原洵子)

試練の時…大幅減産継続で適正在庫目指す

ここ数年、両社の黒鉛電極事業の業績はジェットコースターのようだ。2017年1―6月はほぼ収支トントンで、同年後半から上昇。

18年は両社とも黒鉛電極関連セグメントの売上高営業利益率が50%前後となる好業績をたたき出した。全社営業利益に占める同セグメントの比率は70%台。だが、19年後半から悪化、20年通年で同セグメントの営業赤字を見込む。顧客の鉄鋼メーカーの在庫調整の長期化や黒鉛電極の価格下落に加え、高値の原料在庫も収益を圧迫する要因となっている。

両社は需要環境の悪化を受け、大幅な減産を実施している。東海カーボンの長坂一社長は5日に開いた電話カンファレンスで、「70%の減産幅を継続する」と説明した。設備稼働率は約30%。21年から徐々に稼働率を上げる見通しだが、鉄鋼不況の先行きが見えず、同事業の本格的な回復は21年末以降の可能性があるという。全社の20年12月期の営業利益は前期比88・8%減の61億円を見込む。

昭和電工は5月時点で稼働率30―40%と言及した。需要環境が改善していないため、現在も大幅減産を継続中とみられる。20年末までに在庫適正化を目指す。2月には独マイティンゲン工場の閉鎖を決定。21年上期までに完全に停止する計画で同社の黒鉛電極の生産能力は従来比4万トン減の年21万トンとなる。

昭和電工の森川宏平社長は12日にオンラインで開いた会見で、「20年下期(7―12月)は半期6万トン体制で損益分岐点稼働を実現する」と説明。同社の通常の販売量は年18万トン。20年の販売計画は11万トン弱で、需要が回復すれば大幅増益を狙える水準にしていく。

ただ、世界的に鉄鋼生産が回復する兆しはない。世界で唯一、中国の粗鋼生産は増加しているが、黒鉛電極を使う「電炉法」だけでなく、多くは「高炉法」で生産したもの。また中国で使われる黒鉛電極は日本勢が得意とする高品質品が少なく、恩恵も少なめだ。

黒鉛電極は鉄鋼生産に使われる(建設現場の棒鋼)

そもそも黒鉛電極の収益が乱高下する理由は、電炉法による生産拡大の期待が高い一方、生産できる量は主原料のニードルコークス供給量によって一定の上限があるためだ。電炉法は、黒鉛電極を使って鉄クズを溶かして鉄を作る。鉄鉱石を熱で溶かして鉄を作る高炉法に比べ二酸化炭素(CO2)排出量が少なく、エネルギー使用量低減に貢献できるとして脚光を浴びた。

要求品質の高い自動車用鋼板へ採用を目指すメーカーもある。

このため一度需要に火がつくと黒鉛電極もニードルコークスも取り合いとなり、価格が高騰する。そして現在のように需要が冷え込むと、顧客もメーカーも高値在庫に苦しめられるというわけだ。

両社は中長期で電炉による粗鋼生産の比率が上昇する見方を崩していない。ただ、激しい価格競争が一層収益を圧迫する状況に、東海カーボンの長坂社長は「業界の構造的な問題もある」と、苦言を呈する。徹底的な防衛策で需要回復を待つとともに、健全に成長できる環境も求められる。

東海カーボンのラチボルツ工場(ポーランド)

M&A推進 アルミ精錬・先端材料に活路

両社は黒鉛電極で得た利益を元手にM&Aを行い、新たな成長の推進力にしようと狙った。

東海カーボンは、4年間で総額1800億円のM&Aを実施。目玉は19年に買収した独コベックス(現・東海コベックス)と20年に買収した仏カーボンサボワ(現・東海カーボンサボワ)が担うアルミニウム精錬用カソード電極事業だ。長坂社長は「楽しみな製品」と語り、黒鉛電極とタイヤ材料のカーボンブラックに次ぐ柱に育成する。

アルミ精錬用カソードは、アルミ製造時に取り換えて使う消耗品。自動車などの軽量化ニーズを受けてアルミ需要が拡大すると同製品の需要も増える。

長坂社長は「コベックスがなければ、サボワを買収しなかった」と話す。当初、サボワ買収に向けて新興国企業が動いていたが、東海カーボンは技術流出を恐れて短期間でサボワ獲得に動いた。

新型コロナで想定以上の逆風下にあるが、統合作業を推進してシナジー最大化を図る。

東海カーボン社長・長坂一氏

昭和電工は半導体材料などの情報通信分野や自動車分野の強化を狙い、約9600億円を投じて日立化成を買収した。19年の買収決定時から巨額投資による財務状態の悪化が懸念されていたが、鉄冷えと新型コロナによる世界経済の減速で、状況は厳しさを増す。

20年12月期はのれん償却で180億円を計上し、営業損益は300億円の赤字に転落する見通し。現時点の試算では、のれんの総額は約6000億円にのぼるという。

非中核事業は売却検討

日立化成とシナジー最大化を追求する基本方針は変わらないが、合理化を加速して経済環境悪化に対応する。12日の会見で森川社長は2000億円規模の非中核事業売却検討を含め3000億円規模の資産スリム化とコスト削減などで210億円以上の収益向上策を数年内に順次実行することを明らかにした。

非中核事業売却のほか、設備投資の厳選で500億円、政策保有株売却などの資産圧縮で450億円以上を捻出する。6月末に完全子会社化を完了し、両社間の議論が進展。「ノンコア事業の定義がかなり明確になってきた」(森川社長)という。これと同時に、成長に向けたテーマも、半導体や自動車、人工知能(AI)活用などで具体化してきた。

強い逆風下での買収の成否はまだわからないが、決断が遅れれば、資金調達のハードルが上がった可能性があり、ギリギリのところで進化のチャンスをつかんだとも言える。新しい事業の柱での成長を有言実行できるか、手腕が問われる。

昭和電工社長・森川宏平氏

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日刊工業新聞2020年8月20日

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