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Instagramの短尺動画「リール」、簡単にはTikTokの代わりになれないワケ

Instagramの短尺動画「リール」、簡単にはTikTokの代わりになれないワケ

Instagramの新機能「リール」(公式サイトから)

米国が短尺動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業買収の動きに揺れるなか、Instagramが新機能をリリースした。短尺動画「リール」だ。リールは最大15秒で音楽や音声に合わせた動画を作成、投稿できる機能。まさにTikTokが提供しているサービスを、Instagramの機能として用意したこととなる。今後国内でTikTokの利用が難しくなったとき、はたしてリールはTikTokの代わりになるのだろうか。

Instagramの新機能「リール」とは

現在、国内で主要なSNSといえば、LINE、Twitter、Instagram、Facebookだ。MMD研究所とコロプラが共同で調査を行った「2019年版:スマートフォン利用者実態調査」でによると、利用しているSNS・コミュニケーションアプリ上位3種を聞いたところ、はLINEが89.5%ともっとも多く、次いでTwitterが55.7%、Instagramが40.9%、Facebookが29.0%で、InstagramとFacebookの順位は昨年の調査結果と入れ替わっており、Instagramの人気が上昇していることがわかる。

そのInstagramに、TikTok対抗とも言われる短尺動画機能「リール」が登場した。これまでInstagramは、通常の投稿である「フィード」、24時間で消える短尺動画「ストーリーズ」、長尺動画「IGTV」と機能の拡充をはかってきた。「インスタ映え」が流行語大賞を取った2017年頃は、特別な瞬間をフィードにシェアする使い方がメインだったが、現在は日常の一部を気軽に投稿するストーリーズの人気が高く、70%のユーザーが投稿しているという。

Instagramの新機能「リール」

しかし、ライブ機能もあるストーリーズは撮ってすぐ投稿するような使い方がメインで、あらかじめ企画を立てて作成する動画には向いていなかった。そこで、同じ「最大15秒の短尺動画」でも、作り込める動画ツールを用意したのだ。

リールを作るには、提供されている楽曲やオリジナル音源を設定し、カメラのエフェクトや動画の再生速度を指定して撮影を行う。複数のクリップを繋げたり、スマホに保存している動画を加工したりできる。ダンスやパフォーマンス、コメディなどが多く投稿されている。

ストーリーズに実装されていた「ミュージックスタンプ」の楽曲や「ARカメラエフェクト」機能を使えるため、ユーザーがなじみやすいというメリットがある。また、すでにInstagramで繋がっている人達に動画を見せられるだけでなく、世界中にいる10億人以上のInstagramユーザーに自分の作品を見てもらうチャンスが得られる。

TikTokとの違い、そして類似アプリも

今回、米国から火が付いたTikTokの騒動により、日本国内でも自治体や行政が利用を控える対応を始めている。自民党も中国企業によるアプリの使用制限を求める提言をまとめており、9月にも提出される見込みだ。国内月間アクティブユーザーは950万と主要SNSと比較すれば少ないが、ヘビーユーザーである若い世代からは「TikTokが使えなくなったら悲しい」と嘆きの声が挙がっている。

Tik Tokの公式facebookページから

若い世代に人気のInstagramが類似機能をリリースしたにも関わらず、約2週間が経った今も、リールへ移動しているといった様子は感じられない。もちろんまだ判断は早すぎるが、現在はTikTokで作成した動画をリールにシェアしているユーザーも多く見られる。

両者の作成ツールを比べると、文化の違いが感じられる。TikTokはスタンプやメイク機能を使って自分の顔をめいっぱい「盛る」ことができる。スタンプとは自撮りアプリによくある機能で、タップするだけで美顔加工が行われるものだが、TikTokはこの数が実に多い。メイク機能では目や鼻の形、輪郭に至るまで調節することができるため、プリントシール機の加工のように別人になれる。一方のリールは、顔に雲やハートを飾る加工はあるが、パーツごとに美顔加工する機能はない。顔の加工を好む国内のユーザーは物足りなさを感じているだろう。

また、投稿される内容にも違いが生まれそうだ。現在のTikTokはジャンルが多岐に渡っており、お笑いやおふざけといった気軽な動画も増えている。一方、おしゃれな空間であるInstagramには、TikTokに投稿されているほどのくだけた内容は投稿しづらい。

そしてTikTokは、ユーザーの好みをAIが判定して動画をレコメンドする技術力が高いことでも知られている。同じ時刻にアプリを開いても、出てくる投稿はユーザーによってまったく異なる。このテクノロジーにより、ひとつひとつは数秒の動画だとしても、軽く1時間以上見てしまう中毒性がある。また、新規の投稿を一定数のユーザーに露出する仕組みもあり、自分も有名になれるのではと考えて投稿する人も多い。リールは「発見タブ」でリール動画を見せており、人的に「注目」マークを付けて投稿をすすめているが、そのロジックも含めてまだ未知数だ。

ビジネス面では、リールにはまだ広告枠がないため、はかりかねる部分がある。また、企業が使うビジネスアカウントはInstagramが提供している楽曲や音声が使えないため、オリジナル音源を用意する必要がある。Instagram製造部門責任者のヴィシャル・シャー氏によると、リールの先行テストを行っていた国でもビジネス事例に関してはまだこれからだということだ。

以上のように、TikTokとリールは似ているようで異なる部分も多く、リールがリリースしたからといってTikTokユーザーが移行するとは考えにくい。そしてTikTokのような短尺動画アプリは、他にも存在する。「Triller」や「Dubsmash」、「Byte」といったサービスは、それぞれ今年に入ってダウンロード数を延ばしている。SnapChatを提供している「Snap」も動画に音楽を付けられる機能のテストを開始しており、一部報道によるとYouTubeもTikTokのようなサービスを開発しているとのことだ。これらが日本向けにローカライズされたとき、どうなるか。短尺動画サービスは今後も目が離せない。

(文=ITジャーナリスト・鈴木朋子)
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