社会貢献が企業価値に。堀江車輌電装の障がい者就労支援
ビジネスとして
2013年1月の障がい者スポーツの講演会がきっかけだった。堀江車輌電装(東京都千代田区)の堀江泰社長は聴講後、知的障がい者サッカーの動画を再生してみるとレベルの高さに驚いた。すぐに日本知的障がい者サッカー連盟に連絡し、協力を申し出た。
個人として代表チームの合宿の手伝いなどを始めると「知的障がい者は、働ける場所がないことに困っていると分かった」(堀江社長)という。ボランティアでの限界も感じ、ビジネスでの課題解決を模索し始めた。
同社は鉄道車両の検査や整備が本業。1968年に設立し、鉄道一筋でやってきた。しかし、車両整備の仕事は減少傾向にあり「先行きに不安を感じていた」(同)。鉄道と同じように社会性の高い新規事業をやりたいと考えていた。
そうした思いが重なり、「障がい者支援事業部」を新設して15年、職業紹介サービスを始めた。だが、障がい者を企業に紹介しても新参者なので信頼がなく「初めは売上高ゼロ」(堀江社長)と言える状況だった。それでも行政からの講演依頼を引き受けていると、知名度が上がって紹介が成立するようになった。
自社で研修
ビジネスとして緒に就いたが「ただのプラットフォーム(基盤)ではない」と語気を強める。障がい者に実習生として堀江車輌で研修を受けてもらっている。就労体験中に障がい者の個性を把握し、適性が合いそうな企業に紹介している。これまで300人以上が実習し、企業に就職した。
同社の顧客は鉄道関係がほとんどだったが、障がい者支援事業のおかげで61社と新規取引ができた。ITなどさまざま業界と関係が生まれ、社内にも刺激になっている。
巨大「野球盤」
新しい出会いは取引先だけではない。泣きながら障がい者に貢献したいと訴える男性が現れた。堀江車輌への転職を希望し、家族を残して単身やって来た。
堀江社長が「行動力がすごい」と驚く中村哲郎さんは入社し、19年に「ユニバーサル野球」を試作した。レバー操作でボールを打つ「野球盤」の巨大版。重度障がい者も健常者も一緒にプレーできる。各地にユニバーサル野球を運んで試合を開催しており、19年度は367人の障がい者が参加した。
減少傾向にあった車両関連の仕事量が増加に転じた。堀江社長は「社会貢献が評価されて企業価値となり、既存事業にもプラスになっている」と確信する。障がい者支援が、目には見えない相乗効果を生んでいる。