地球は熱を宇宙に捨てている!?意外に知らない地球のヒミツ
太陽から受け取った熱に照らされ猛暑が続きますが、実は地球も熱を発し、それを宇宙に捨てているのです。一体、どんな仕組みなんでしょうか。今回紹介する書籍と同じシリーズ「おもしろサイエンスシリーズ」は1つのテーマを科学的観点からおもしろく解説します。シリーズをまとめたサイトもあるので、ぜひご覧ください。
地球のエネルギーバランス
地表での活動は最終的にはすべて地表での熱に変わっています。私たちは、太陽から太陽光という形で、地表でエネルギーを受け取っていることは実感しています。けれども、地表からエネルギーを熱輻射という形で宇宙に捨てていることを認識していることは少ないでしょう。さらに、熱輻射だけでなく、雨も地表のエネルギーを宇宙に捨てることに役立っていることは、ほとんどご存じないと思います。
地表は太陽から1.2×1014キロワットのエネルギーを太陽光のエネルギーとして受け取っています。そして、同量のエネルギーを宇宙空間に捨てています。これが釣り合っておらず、たとえば、太陽からのエネルギーの方が大きければ、エネルギーが蓄積されることになり、地表温度はどんどん上昇してしまいます。
地表から熱を捨てる方法
地表から宇宙空間に熱を捨てる方法の1つが、熱輻射です。宇宙の温度は絶対温度で3ケルビン、摂氏マイナス270℃といわれています。したがって、それよりも温度の高い地表や大気からの熱輻射によって、地表のエネルギーを宇宙に熱として捨てることができます。その他に、熱伝導と大気の移動(対流)によっても熱を移動させています。
それらに加えて、地球に特有なのは、水による熱の運搬です。水が蒸発するとき、大きな熱を吸収します。これが水の蒸発熱です。雨が降ってできた水たまりも、太陽が当たるとみるみるうちに蒸発して無くなっていきますね。水が熱を吸収して水蒸気になっているのです。
そして、これも驚くべきことですが、地球の大気は窒素と酸素でできていて、水蒸気はそれよりも軽いので、いったん蒸発して水蒸気になったら、軽いので、大気中を上昇して昇っていくのです。ドンドン上っていく過程は、熱のやりとりをしない断熱過程に近くなり、気圧も薄くなるので膨張します。つまり断熱膨張が起こります。
断熱膨張では、気体の温度が下がるのです。つまり水蒸気は冷えるのですが、水蒸気は冷えると凝縮します。この凝縮は宇宙空間に近い大気上空で起こり、そのときに蒸発熱とは逆に凝縮熱を放出します。大気上空で熱を発生するので、結果として宇宙へ熱を捨てることになります。凝縮した水蒸気は、水滴になって重たくなって地表に落ちてきます。これが雨です。そしてまた水たまりを作って、地表の熱をもらって水蒸気になり…と、循環し続けるのです。
結局、水は大気中を循環することにより、地表の熱を大気上空に持っていき、宇宙へ捨てる役割を果たしているのです。雨が降ると濡れて嫌なことが多いですが、文句も言わず、地表の温度を一定に保つために、ただひたすらくるくると循環している水のことを考えると、雨にも感謝しなければならないですね。
台風は赤道付近の熱を運ぶ
水と関係した熱の移動に台風があります。台風は赤道付近で発生し、高緯度域に移動して消滅します。台風のあの強烈な運動エネルギーのもとは、海上の水蒸気の凝縮熱です。赤道付近の海面近くの温かい水蒸気が、いったん上昇気流を作ると、先ほど述べた断熱膨張を起こし温度が下がりますが、水蒸気の量が多いので、大量に凝縮することになります。そのため大量の雨が降るのです。そのとき、大量の熱が発生します。これが台風の運動エネルギーの元です。
つまり赤道付近の海面のエネルギーを引き連れて高緯度のエネルギーの低い場所に移動して、赤道付近の高いエネルギーを、高緯度域の低いエネルギーの場所に運んでいるといえ、台風もまた地表のエネルギーバランスに貢献しているのです。加えて台風には海面付近と深層の海水をかき混ぜる効果があります。大気と異なり海水は垂直方向にはなかなか混ざりません。台風は暖かい海面付近の水と冷たい深層の海水を激しく混ぜることによって、海の温度を均一にする大きな役割を果たしています。
一口メモ(「おもしろサイエンス熱と温度の科学」より一部抜粋)
太陽から地表が受け取るエネルギーと、地表が宇宙空間へ捨てるエネルギーは釣り合いが取れている。地表から宇宙空間へは、熱輻射や熱伝導、対流に加えて地表面垂直方向の水循環も重要な役割を果たしている。
「熱」と「温度」の原理をきちんと解説し、「熱」と「温度」の両方が関わる現象を取り上げ、具体的なエピソードを交えながらやさしく解説する。また、さまざまな温度の測り方についても解説する。技術や現象の本質を捉える(科学的な)見方について楽しく学べる。
書名:おもしろサイエンス熱と温度の科学著者名:石原 顕光 著
判型:A5判
総頁数:144頁
税込み価格:1,760円
<著者>
石原 顕光(いしはら あきみつ)
1993年 横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了
1993~2006年 横浜国立大学工学部、非常勤講師
1994年〜 有限会社テクノロジカルエンカレッジメントサービス取締役
2006~2015年 横浜国立大学グリーン水素研究センター、産学連携研究員
2014~2015年 横浜国立大学工学部、客員教授
2015年~ 横浜国立大学先端科学高等研究院、特任教員(教授)
●主な著書
・「トコトンやさしい元素の本」日刊工業新聞社(2017)
・「トコトンやさしい電気化学の本」日刊工業新聞社(2015)
・「トコトンやさしいエントロピーの本」日刊工業新聞社(2013)
・「トコトンやさしい再生可能エネルギーの本」監修・太田健一郎、日刊工業新聞社(2012)
・「トコトンやさしい水素の本 第2版」共著、日刊工業新聞社(2017)
・「原理からとらえる電気化学」共著、裳華房(2006)
・「再生可能エネルギーと大規模電力貯蔵」共著、日刊工業新聞社(2012)
<販売サイト>
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Rakutenブックス
日刊工業新聞ブックストア
<目次>
第1章 大混乱! 熱と温度とエネルギー
「熱い」ってどういうこと?/温度を測ってみよう/エネルギーとは何か?/エネルギーは保存される/いろんな熱がある!/比熱、熱容量から熱量へ/物質に潜む熱? -状態変化に伴って出入りする潜熱-/鉄が錆びたら熱が出る/こすると熱くなる~摩擦熱/エネルギーのもう1つの移動形態-仕事という作用量-/仕事に変わる熱/熱の伝わりやすさ
第2章 温度って何だろう? ~熱の特性
続けて仕事を取り出したい/サイクルを使おう/これが天才カルノーのサイクルだ/熱の仕事への変換効率~ただしサイクル/熱の価値は温度で決まる/絶対温度はこうして決めた/いくら熱がたくさんあっても…/トータルで熱の価値は下がる
第3章 温度を測ってみよう
温度基準としての水の状態変化/水の三重点/温度計の歴史/温度を測る-いろんな温度計がある-/熱いと膨らむ-正しくは「温度が高いと膨らむ」-/熱電対~温度差が起電力を産む/放射温度計と熱輻射/熱はこうして伝わっている
第4章 やはり熱が本質だった
真空膨張は戻れない?/ひそかに発生する熱-やっぱり熱が変化の方向を決めていた-/地球は熱を宇宙に捨てている/世の中は熱だらけ