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コロナ禍で目安示せず…最低賃金引き上げは悪手か

厚生労働省の中央最低賃金審議会(厚労相の諮問機関)の小委員会が2020年度の最低賃金について、「現行水準を維持することが適当」とする答申をまとめた。新型コロナウイルス感染症により景気が悪化する中で、最低賃金引き上げより雇用の維持を重視する経営側の主張が通った。同委員会は22日、リーマン・ショック後の09年度以来11年ぶりに、最低賃金の目安を示すことを断念した。

日本商工会議所の三村明夫会頭は、「未曽有の苦境にある中小企業・小規模事業者の実態を反映した適切な結論であり評価する」とコメント。三村会頭は引き上げの凍結を主張してきた。今後は答申を踏まえ、都道府県労働局の審議会が議論した上で、最低賃金を決める。審議会においても、「中小企業・小規模事業者や地域経済の窮状をしっかりと考慮した検討が行われることを期待する」(三村会頭)とした。

一方、最低賃金引き上げをめぐっては、労働側が地域間格差の是正を求めている。地域によっては賃金が引き上げられる余地は残されている。

日刊工業新聞2020年7月24日
志田義寧
志田義寧 Shida Yoshiyasu 北陸大学 教授
最低賃金を引き上げれば社会的に望ましい姿に近づくかというと、必ずしもそうとは言い切れない。経済学的には最低賃金を人為的に引き上げれば、非自発的失業者を生み、社会的余剰の損失(死荷重)が発生する可能性がある。実際、韓国は最低賃金を大幅に引き上げた結果、失業率が上昇し、かえって経済の低迷を招いた。今回、コロナ禍による経済の悪化に対応するために最低賃金の引き上げを決めた国もあるが、雇用調整を人員削減(解雇)でするのか、賃上げ抑制(あるいは残業代やボーナスカット)でするのかは、国によって事情が異なる。この手の議論は目先の利益に惑わされるのではなく、「冷静な頭脳と温かい心(cool head but warm heart)」を持って考えることが必要だ。

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