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清掃スクレーパーの定番ブランドメーカー、“8S”で世界を目指す!

雑誌『工場管理』2020年8月号連載 闘う!カイゼン戦士
清掃スクレーパーの定番ブランドメーカー、“8S”で世界を目指す!

ナルビーの皆さん

清掃道具のスクレーパーの定番ブランドとしてその名が知られるナルビー(千葉県市川市)は、工場移転をきっかけにそれまでほぼ手つかずだった5S 活動を開始した。十数年間の取組みにより自社の文化となった5 S 活動は、2019 年、「節約・整備・習慣」の3つのS を加えた“8S”に進展。現場力の向上など早くもその効果が出始めている。5S 活動に始まる現場改善が進んだことで、同社の構想にあった熱処理工程の昼夜連続稼働も実現できた。世界市場でのブランド化を目標に掲げる同社は、8S を軸とする改善活動をさらに推し進める。

一貫生産で業界定番のスクレーパーをつくり出す

千葉県市川市を拠点とするナルビーは、前身の古川バリカン・枝切バサミ製作所を1897 年に創業して以来、一貫して刃物の製造や販売に携わってきた。現在は工業用・業務用ナイフやスクレーパーを主力製品として、プレス加工から熱処理、刃付け・研磨までの刃物製造の全工程をすべて自社で完結させる一貫生産を行う。

同社製品で特に好評を得ているのが、ガラスやタイルの汚れをそぎ落とすのに利用されるスクレーパーだ。同社の業務用ガラススクレーパーはビルメンテナンスやハウスクリーニングなどの清掃業界では定番品として知られており、国内シェアは約90%を誇る。刃先を回転させて収納できるガラススクレーパー「ナピカ」シリーズと、スライドカバー式の大型スクレーパー「S-PRO」はそれぞれ1992 年度、2010 年度のグッドデザイン賞を受賞した。

一方で、今年5 月にはこれまでOEM 生産などで製造してきたBtoC 製品分野を強化する方針を打ち出し、6 月にはDIY・アウトドア用途の自社ブランドナイフを発売。100 年以上の歴史で培った技術力と、近年注力する改善活動を土台として、新たな領域への挑戦も仕掛けている。

工場移転をきっかけに5S を始動

2000 年代初め、同社は将来を見据え、本社機能のみ千葉県市川市に残して工場移転を決意。2002年に同県四街道市で四街道工場を設立し、07 年には生産拠点の完全移転を完了させた。 古川昇代表取締役社長は、自身が35 年ほど前に4代目として会社を引き継ぐ以前から、同社が抱える課題を問題視していたという。「現場ではいわゆる属人的な働き方がなされていました。各従業員に高いスキルは備わっているのですが、組織としての統制がとれていない状況が続いていたのです」。また、製造部四街道工場の西野正一工場長は移転前の同社工場の様子を、「整理整頓などはほぼ行われておらず、狭く乱雑な状態でした。われわれもまたそれを問題視しておらず、その状況にどっぷりとはまっている状態でした」と話す。この状況を脱するべく、当時、古川社長の主導でTQC活動の導入やISO 取得を目指す勉強会などが試みられたが、現場には定着しなかった。

転機となったのは前述の工場移転だ。同社の5S 活動はその移転とほぼ同時期に始まった。「今思えば、あの時が当社のターニングポイントでした」(西野工場長)。

移転先は四街道市内の工業団地。近隣に他社工場が軒を連ねる環境に変わり、他社の従業員とコミュニケーションをとる機会が増えていった。その中で、当時、工場移転業務の中心役を担っていた西野工場長は、しっかりあいさつする、清潔な作業着を身につけるといった基本事項の重要性に改めて気づかされたという。「工場の様子も外部の目にさらされるようになりました。工場の整理整頓や清掃などの必要性も考え始める中で、『5S は良い製品を提供するためにも不可欠だ』との思いに至りました」(西野工場長)。

砥石の在庫管理体制を刷新

工業団地内で他社工場から早く受け入れてもらいたいとの意識も強く働き、始動させた5S 活動は少しずつ現場に定着。現在では、午前8時の始業前になると従業員らは自分たちの持ち場の掃除を自主的に始めるようになった。「ダラダラ5S はダメですね。『掃除をしよう』などと漫然とした指示をするのではなく、『5分だけやろう』と提案すると作業もきびきびと進みました」(西野工場長)。

5S 活動の中で、刃付け・研磨工程で用いる砥石の整理整頓や在庫管理も大幅に改善された。同社で扱う砥石は約40 種類。粒度や研磨機への取付穴サイズなどで細かな違いがあり、用途に合わせて最適なものを選択する。以前は砥石の整理整頓がうまくなされていなかった。「砥石はすべて段ボール箱に入れっぱなしで外からは見えません。在庫管理の担当者以外、どの砥石がどれだけあるのか把握できていない状態でした」(西野工場長)。管理担当者の退職もきっかけとなり、同社は砥石の整理整頓を一念発起。各砥石が種類別で並べられ、在庫の概要がひと目でわかる整理棚を設置した。また、砥石の最大ストック量の把握と発注点管理が品番などを記載した札で行える仕組みも確立した。現在は、必要な砥石の種類自体を削減するために研磨機側の改良を進めているという。「砥石に互換性を持たせることで、在庫を抑えられるようにしていきたいです」(西野工場長)。

5S 活動で設置した整理棚には各種砥石が整然と並ぶ

商品開発室の古川昇一郎取締役室長は、以前勤めていた企業での5S 活動の経験から同社の5S 活動を後押しした。「前職での経験もあって当社ではISO 管理責任者を務めていますが、内部監査の手法を用いて現場の5S がきっちり行われているかをパトロールするなどの取組みを行いました」。

「節約・整備・習慣」の3 つのS をプラス

5S 活動が同社の文化となったことを踏まえ、19 年からは西野工場長らの発案で、継続中の5Sにさらに3つのS を加えた“8S”を掲げ、改善活動のレベルアップを図っている。新たに加えた3つのS は、「節約・整備・習慣」を示す。「以前から5S では拾い切れていない部分があると感じていました。5S が軌道に乗った今、その部分の改善も進めてもらいたいという思いで、スローガンとして掲げることが目的でした」(西野工場長)。

たとえば、「節約」では水道や電気のムダ遣いをなくすという基本的な部分を示した。一方、「整備」では生産計画チームの主導で機械のメンテナンスや修理を行う保全日を定期的に設けるとともに、機械を扱う従業員から異常の申告があればすぐに対応できるようにした。そのおかげで、現在ではドカ停の発生はほぼなくなったという。また、「習慣」は、5S も含めたこれらの取組みの意識を従業員間でしっかり共有し、継続・習慣化させることで生産現場の力とすることを示す。「8S を掲げるようになってから、実際に現場の生産性も上がってきたと感じています」(西野工場長)。

工程間の連携強化にも注力している。「各工程から入社3年程度の若手の従業員を選抜し、連携を深めることを目的とした“実務者チーム”を結成しています」(西野工場長)。刃物の原料の鋼にはサビやすい特徴があり、仕掛品が工程間で滞留するとその間にサビが発生して不良になる問題がある。また、不良の多くは下流の刃付け・研磨工程で発見されるため、不良発生時は上流工程に素早くフィードバックしなければならない。実務者チームの結成には、定期ミーティングを通じて製造に関する情報交換を普段から行い、工程間のスムーズな報連相を実現してこれらの課題を解決する狙いがある。「現場全体の情報の共有化は以前に比べてずいぶん進みました」(西野工場長)。

熱処理工程で夜間の無人稼働を実現

5S 活動に始まる現場改善が続々と進んだこともあり、同社は18 年に量産品を対象とした熱処理工程の昼夜連続稼働に着手。見事、実現させた。

熱処理工程では、刃に必要な硬度や靭性を持たせるためにどうしても一定の加熱時間を要する。量産品の製造ではここがボトルネックとなっており、解決策として夜間も無人で熱処理工程を稼働させ、生産性を高める必要があったという。以前は5レーンあった熱処理設備のうち、2レーンで量産品の熱処理を行っていたが、昼夜連続稼働の達成による生産速度の向上で1レーン化を実現。空いたレーンでは、他製品の熱処理が可能になった。「こうした生産体制は以前から頭にはありましたが、5S を含む改善活動が現場にしっかりと定着したことでようやく実現できました」(古川社長)。昼夜連続稼働レーンでは従業員の改善アイデアも光る。「焼入れ・焼き戻し後の刃にはすぐに防錆油を塗布する必要があります。夜間の無人稼働での課題の1つとなっていましたが、工程担当の従業員が自動注油装置を発案・製作してくれたことで無事解決できたのです」(西野工場長)。

改善の推進で実現した熱処理工程の昼夜連続稼働レーン
従業員発案の自動注油装置が夜間の無人化を可能にした

古川社長には、「自社製品を世界市場でブランド化する」という長期目標がある。その一環として、今後は多台持ち・多能工化にも積極的に取り組んでいく。「自工程を外から見る目が備われば、自ずと視野も広がります。その実現には、やはり5Sや8S の継続が効いてくると考えています」(古川社長)。19 年にはISO9001 を取得した。「ISO 取得は手段であって目的ではありません。取得を通じ、改善活動にも関わる意識改革が従業員の中で進んでいけばと期待しています」(古川社長)。最終製品まで製造できることを強みに、勢いを増す改善活動を基盤として、同社は海外でのナルビーブランドの確立を目指す。 (本誌 西田 渉)

■カイゼンキーマンに聞く!!「8S を基盤に女性でも活躍できる現場へ!」

製造部 四街道工場 工場長 西野 正一氏
製造部 四街道工場 工場長 西野 正一氏

2002 年の工場稼働当初から始めた5S 活動を長年推し進めてきました。工場を訪れる取引先の方から「掃除が行き届いた工場だね」とほめられたり、古くから付き合いのある企業の方から「新調したのかと思ったほど機械がきれいだ」と驚かれたり、外部の人から良い反応がもらえた時が最も気持ちよい瞬間です。刃物製造では完成品によるケガなどが怖いものですが、職場環境や従業員の意識も向上し、今ではそうした事故はほぼゼロ。最近は女性従業員の活躍も目立ち始めています。3年前に意欲ある女性からの立候補を受けて、刃付け・研磨工程に初の女性従業員を配属しました。女性が加わるとその人自身の頑張りと周囲への良い刺激によって5S がより進むと知り、女性の力を実感しています。5S や8S の継続を土台に、今後は女性でも活躍できる生産現場を目指したいですね。
(工場管理2020年8月号より抜粋)

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<雑誌紹介>
雑誌名:工場管理 2020年8月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

<内容紹介>
工場管理 2020年8月号  Vol.66 No.10

【特集】
中小製造業の生産技術力を鍛える!
~人手不足に打ち勝つ工場づくりのカギ~

人手不足が深刻化する中、将来的には少ない人数で効率良く工場運営をすることが理想的だ。新型コロナウイルスの感染拡大も工場少人化に拍車をかける要因となった。その実現には自動化・機械化を取り入れた生産ラインの構築や人手作業の脱却が必要であり、生産技術力が決め手となる。しかし中小製造業においては、生産技術の専門部隊を組織化せず製造担当者が兼務しているケースが多い。将来の工場のあるべき姿を見据えると、工場づくりに欠かせない生産技術力を磨くことが急務である。特集では、生産自動化の基礎から導入のプロセス、生産技術の土壌を築くための現場マネジメントなど多角的な視点から、生産技術力を強化するための方法を解説。生産性向上を実現した実践事例も紹介する。

工場管理2020年8月号

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