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防衛白書で示された「対中国」への戦闘ゲーム・チェンジャー

宇宙やサイバーの新領域で開発を

2020年版防衛白書は、1970年(昭45)の中曽根康弘防衛庁長官(当時)時代に初めて刊行してから50周年となる。巻頭特集で過去の歩みを振り返ると同時に、新領域である「宇宙・サイバー・電磁波」を取り上げて新たな時代の変化を展望した。

わが国を取り巻く安全保障環境では、中国の軍事拡張の不透明性に対する「強い懸念」や、北朝鮮の核実験などが「重大かつ差し迫った脅威」という判断を維持。一方、弾道ミサイル等への対抗策であるイージス・アショアに関しては、6月に配備を断念したことを記すにとどめ、その穴をどう埋めるかについては踏み込まなかった。

中国については、尖閣諸島周辺における公船の度重なる侵入を踏まえ、力を背景にした一方的な現状変更の試みを「執拗(しつよう)に継続している」と記述。軍民融合政策を全面的に推進しつつ、軍事利用が可能な先端技術の獲得にも積極的な取り組みを行っていると指摘した。北朝鮮についてはミサイル関連技術を高度化し、わが国ミサイル防衛網の突破を企図していると分析。ロシアも装備の近代化を進めているとした。

最先端技術を活用する新領域については、白書が回を重ねるごとに記述の厚みが増している。宇宙領域では、米国が第6の軍種として「宇宙軍」を創設したことを紹介。サイバー領域で中国、ロシア、北朝鮮などが多様な手段で積極的にサイバー攻撃を実施していることを指摘し、複数の具体例を挙げた。

また電磁波領域では、意図的な通信障害など従来の常識が通じない戦いを説明。主要国が、厳しい電子戦環境下で使用できる装備品の開発を進めているとしている。

一般に日本は、宇宙開発やIT分野で優れた技術を持っていると考えられている。しかし、その多くは平和利用や民生技術にとどまる。軍事利用の経験や実績は必ずしも豊富ではない。自衛隊も宇宙やサイバーの専門部隊を設けたが、特にサイバー分野は人材育成の段階にというのが実情だ。

新領域の各種兵器は、従来の戦闘を一変する「ゲーム・チェンジャー」になると見られている。日本としても諸外国に劣後しない装備と体制を整える必要があろう。経験の乏しい分野だけに国が技術開発を先導し、民の力を合わせて実用化してもらいたい。

白書はこのほか、新型コロナウイルス対応や災害復旧での自衛隊の活躍を紹介している。自衛隊が、こうした困難に備えていることを改めて評価したい。

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