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澤田社長の知られざるファミマ改革、コンビニは「日本の家族」になれるか

<情報工場 「読学」のススメ#81>『職業、挑戦者』(上阪 徹 著)
澤田社長の知られざるファミマ改革、コンビニは「日本の家族」になれるか

伊藤忠商事が子会社化、今後の動向は…

伊藤忠商事によるファミマ子会社化でコンビニ業界は変わるのか

コンビニエンスストアのビジネスモデルが転換期を迎えている。

この7月8日、総合商社の伊藤忠商事は、グループ内のコンビニ大手「ファミリーマート」を完全子会社化すると発表した。狙いは、伊藤忠商事の取引先の販路拡大に加え、過渡期のコンビニ事業における経営判断の迅速化とされる。

具体的な動きはこれからだが、今後、AIを活用した業務効率化、顧客データの活用、実店舗とデジタルの融合による新ビジネスの構築などを目指す方針だ。

日本フランチャイズチェーン協会によると、国内のコンビニ店舗数は2019年末、2005年以降初の減少に転じた。人口減少により、コンビニ店舗はすでに飽和状態。規模拡大によって売上や利益を積み増してきた従来のビジネスモデルは限界を迎えている。

そして、その状況に新型コロナウイルス感染拡大防止のための外出自粛、在宅勤務の増加(オフィスにおけるランチ需要の減)などによる消費縮小が追い討ちをかけた。

もっとも、コンビニ業界の店舗数拡大を前提とした成長戦略が、人口減少でいずれ行き詰まるのは、以前からわかりきっていた。

実は、ファミリーマート(ファミマ)のこの問題への対処は早かった。2016年にサークルK・サンクスと統合しセブン-イレブンに次ぐ業界2位に躍り出たものの、その後すぐに3,300店舗の閉鎖に踏み切ったのだ。

『職業、挑戦者』(東洋経済新報社)に、このあたりの事情が詳しく書かれている。同書で、著者のフリーランスのブックライター、上阪徹さんは、当時のファミマの決断について「拡大志向が当たり前だったコンビニ業界では、ありえないことだった」と記している。

この店舗の大量閉鎖に加え、1,025人の希望退職、従業員の意識改革、売り場改革など一連の「ファミマ改革」を指揮してきたのは、2016年に就任した澤田貴司・現社長である。

『職業、挑戦者』は、澤田社長への徹底インタビューをもとに、彼が伊藤忠商事やユニクロ、事業再生会社の起業を経てファミリーマート社長に就任し、そこから推し進めてきた改革を追いかけている。ファミリーマートという一つのチェーンだけでなく、今後の日本のコンビニ全体が向かうべき方向を見通せる一冊だ。

アマゾンなどECの強みに対抗し、地域の特性を付加価値に

ところで、アマゾンに代表されるEC(電子商取引)の普及により、近年の流通業が激変しているのは周知の通りだ。

ECの強みの一つに、「地域」に依存せず、全国、いや全世界どこにでも、同一の商品を提供できることがある。「地域」からの脱却をめざすのが、ECを筆頭とした昨今の流通業の大きな潮流といってもいいだろう。

一方でファミマの澤田社長は、2019年に同社の基本理念を刷新し、その一つとして新たに「地域に寄り添う」を掲げた。いわば、潮流に対する“逆張り”だ。それぞれの店舗が「地域にある一軒の小さな商店」として、そこに暮らす人々に必要とされる存在になることをめざすという。

澤田社長の掲げる「地域重視」を端的に表すものの一つに「うまいパン決定戦」がある。全国の店舗を5ブロックに分け、製パンメーカー9社が一つのテーマのもと開発した商品を販売。ブロックごとに、もっとも売上額が多かったパンを、ファミマが「うまいパン」認定するキャンペーンだ。各地域で愛されるパンを決めるこのキャンペーンは、2018年に第1回、2020年に第2回が行われた。

今回の子会社に伴い伊藤忠商事は、JAグループと提携してファミマの新商品を開発するなど、地域らしさを重視した店舗運営を検討するという。それによってファミマは、全国一律の特性を持つ、アマゾンをはじめとするECの対抗軸を作れるかもしれない。

「『日本の家族』になる」と語るファミリーマート社長

さらに、アマゾンはECで大成功を収めてきたが、「(生鮮)食料品」という、いまだ大半がリアル店舗で販売されているカテゴリーについては、従来のビジネスモデルでは勝てないとして、2017年に、高級スーパーのホールフーズ・マーケットを買収、実店舗のビジネスに参入した。

だが、アマゾンが、そこまでして手に入れたがった実店舗は、コンビニチェーンは言うまでもなく、すでに持っている。実店舗ビジネスに関しては、アマゾンは圧倒的に後発なのだ。コンビニとしては、アマゾンに追いつかれないために、いかにその優位性を磨き上げるかが勝負になるだろう。

澤田社長は、『職業、挑戦者』の中で、コンビニ店舗が高齢者や単身世帯の生活を支えることの重要性を語っている。たとえば、店員が、高齢者に代わって「端末機の操作をしてあげる」「販売したペットボトルのフタをとってあげる」、「家の照明が切れた時に、交換のために訪問する」というように、きめ細かいサービスまで実現できれば、実店舗が消費者の近くにある強みが、さらに発揮できるというのだ。

「ファミリーマートは、『日本の家族』になるんです」と、澤田社長は同書で語っている。伊藤忠商事がファミマ子会社化でめざすように、未来のコンビニに、AIやビッグデータが活用されるようになるのは間違いないだろう。しかし、おそらく「コンビニの強さ」はそこにあるのではない。ファミマに限らず、コンビニ業界は、「家族」のような気遣いと温かみの実現に力を入れていくべきなのかもしれない。

(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『職業、挑戦者』 -澤田貴司が初めて語る「ファミマ改革」 上阪 徹 著 東洋経済新報社 254p 1,500円(税別)
<情報工場 「読学」のススメ#81>
冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
かつてコンビニ業界では、セブン-イレブンが、全国どこでも同じデザインの店舗で、同じ商品を扱うという「均質性」を特徴として、シェアトップに君臨していた。それに対してローソンが、新浪剛史元社長が旗振り役となり、地域の「個客」と向き合う「個店」を作り上げることで勝負を挑んでいた。一方、ファミリーマートには長らく戦略が見えづらかったが、澤田社長が就任することで、「地域重視」というローソンに近い方向性が見えてきた、ということなのだろうか。アマゾンという共通の“敵”に対し、少なくともファミマとローソンは同じ方向を向きながら対抗しようとしているのかもしれない。

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