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異彩放つファミマの「ファミペイ」、好調の秘けつに迫る

異彩放つファミマの「ファミペイ」、好調の秘けつに迫る

ファミペイのダウンロード数はキャッシュレス・ポイント還元もあり537万となった

ファミリーマートのスマートフォン決済アプリ(応用ソフト)「ファミペイ」は7月にサービス開始1年を迎えた。同時期に始まったセブン&アイ・ホールディングスの「セブンペイ」は開始早々の不正アクセスにより、3カ月で廃止。ファミマはアクセス集中で初日の2019年7月1日と5日に通信障害を起こしたが、それ以降は大きな問題は起きていない。コンビニエンスストア業界ではローソンは独自のサービスは導入しておらず、ファミマのみとなった。

ファミペイのダウンロード数は5月現在537万を数える。目標とする1000万には到達していないが、19年10月から20年6月末までのキャッシュレス・ポイント還元制度でコンビニでのキャッシュレス決済が2%還元になったことは追い風となった。回数券機能、うなぎやクリスマスケーキといった季節商品の予約機能などの充実でダウンロード数を増やしてきた。

ファミペイ導入の背景には政府が25年までにキャッシュレス決済比率を40%と掲げていることがある。ファミマとしては店舗オペレーションの負荷低減と顧客情報管理(CRM)による高度なマーケティングも狙った。

この結果、現金支払いに比べてレジでの接客時間が3分の1に短縮した。CRMを生かした商品開発はまだできていないが、利用者の購買履歴を分析して、その人にあったクーポンの配布を実施。利用率は通常のクーポンの2倍以上と高く、メーカーも新商品発売時にはこぞって利用する。ファミペイ導入の成果は徐々に生まれている。

インタビュー「小口ファイナンス、来期中に」

佐藤邦央氏

ファミペイの課題や今後について、佐藤邦央新規事業開発本部金融・デジタル推進部部長に聞いた。(編集委員・丸山美和)

―個別配布のクーポンなどが好評ですが、ファミペイの現状は。

新型コロナウイルスの感染拡大でファミペイのPRは控えてきたが、これからはキャンペーンなどを再開して会員を増やすことで、さらにデータ精度を上げていく。

―当初、後払いができる小口ファイナンスなどの機能も搭載する予定でしたが。

小口ファイナンスは準備中で、遅くとも来期中にはリリースしたい。他のカード会社などと協業しなくても、グループ内にクレジットカード会社の『ポケットカード』があり、貸金業の免許を取得すれば自前でできる。

―大きなトラブルは起きていませんが、講じた対策とは。

他社のことを対岸の火事と捉えず、仕組みを総点検した。アプリに機能を追加するとお客さまにとって便利になる一方、リスクも上がる。安心して使ってもらえるよう常にシステムをチェックして、万全の体制を取っている。自社のアプリだからこそできることは多く、早急に品ぞろえや商品開発に生かしていきたい。

伊藤忠、完全子会社化でどうなる?

伊藤忠商事は8日、子会社のファミリーマートの株式公開買い付け(TOB)を行うと発表した。買い付け総額は約5800億円を予定。小売業界の環境が激化する中、上場廃止によって、迅速な意思決定につなげる。消費者データの分析やデジタル化など、経営資源の相互活用を進める。

伊藤忠商事が99%、東京センチュリーが1%出資する合同会社がTOBを実施する。1株当たり2300円で公開買い付けを行う。買い付け期間は7月9日から8月24日まで。

現在、伊藤忠商事はグループ合計でファミマの株式を50・1%保有している。TOB後は伊藤忠商事が約94・70%保有する。

あわせて全国農業協同組合連合会(全農)、農林中央金庫(農中)、東京センチュリーとの関係を強化することを目的に、全農と農中が合計で約4・90%、東京センチュリーが約0・40%、ファミマの株式を取得する方針だ。

伊藤忠商事はファミリマートの上場廃止によって、コンビニエンスストア事業の変革に踏み切る。調達網を生かした商品力の強化だけでなく、来店データをはじめとしたビッグデータ(大量データ)を活用した新サービスを開発。競争力を上げるとともに新しい生活様式に沿ったビジネスモデルを確立する。

伊藤忠はファミマのデジタル変革(DX)を加速する。全国約1万6500の店舗網と1日当たり約1500万人の来店客を元にデジタルプラットフォーム(基盤)を作り、新サービスを提供する。

“アフターコロナ”も変革を後押しした。伊藤忠はテレワークの定着や非接触型接客などが、ある程度常態化すると想定する。そうなると、コンビニ事業がこれまで前提としていた出店立地や決済手段、商品構成などは大幅な変更を迫られかねない。サプライチェーンの最適化や効率化は急務だ。

沢田貴司ファミマ社長は「伊藤忠を使い倒したい」と強調。伊藤忠の新技術や人材開発、既存の海外拠点などを今まで以上に活用して、店舗やサービス、商品を進化させる。さらに成長が期待できる海外で店舗を増やせるほか、伊藤忠のパートナー企業と提携できるようになる。

ただ、伊藤忠から役員や社員を受け入れるかに関しては「受け入れるつもりはない」(沢田社長)方針。上場廃止後も、当面は現経営陣による体制を維持し、独立性を維持していく姿勢を見せた。

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