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「軽量で高強度」「高放熱性」。金属基複合材をオンリーワン技術で開発の中小企業

雑誌『工業材料』2020年8月号 企業・研究所訪問&Interview

次世代の先進アルミ基複合材料の開発・製造・販売を行うアドバンスコンポジットは、1960〜70年代に高品質アルミ部材製造に用いられた「溶湯鍛造法」を用いて、高強度軽量部材や放熱性の高い複合材料の開発を積極的に進めている。代表取締役社長の庄司隆敏氏に、同社の製品の特徴や今後の展開について伺った。

アドバンスコンポジットの概要

アドバンスコンポジットは、富士山を間近に臨む静岡県富士市の中央部にある。「溶湯鍛造法」によってつくられる複合材料に関し、その将来性の高さを確信したメンバーによって2015年7月に設立された。溶湯鍛造法による先進複合材料の開発・製造を中心に、加工・評価・販売まで一貫して行っている。

企業理念

企業理念は「地球のインフラを素材から支える」。

コンピュータなどの情報機器、交通手段、医療、エネルギー分野の技術発展は著しいが、機器の高性能化・小型化が進めば進むほど発熱し、排熱手段が多くの分野で喫緊の課題となっている。また、高速交通も高速を追求すればするほど、部品には精度と強度が求められるようになる。

溶湯鍛造法で製造されるさまざまな複合材料は、軽量・高強度・高放熱性・低線膨張などの特徴を有し、各種機器の高性能化、軽量化などに対応が可能である。このテクノロジーを用いれば、地に足のついたかたちで世界を変えていけるのではないか、それこそが自分たちの役割ではないか。アドバンスコンポジットのメンバーはそう考え、「地球のインフラを素材から支える」という理念のもと、より高性能、より省エネルギー、よりエコロジーな企業活動を進め、地球規模の環境改善に取り組み、人間のよりよい生活や地球にやさしい社会の発展に寄与していくことを目指している。

組織と開発体制

社員は35名で、うち5名はアジア各国理工科系大学出身者である。日本では冶金・鋳造技術の研究開発が減少してきているのに対し、アジアでは依然として、高等教育機関での研究開発も活発に行われている。そのような情勢と、海外への事業展開も見据えての採用・人材開発方針である。

組織は管理部、営業部、技術開発部、製造部、品質保証部に分かれ、それを経営企画室が統括する。製造部と並んで技術開発部には12名が在籍。新素材の研究開発を手がける研究開発室も技術開発部の中に置かれている。

溶湯鍛造前の不純物を除去する風景

設備

7000平方メートルの敷地に事務棟ほか4棟の工場を配置している。

金属を溶解し、強化材やマトリックス材などを加えて高圧鋳造し、金属の複合材料を製造する。第2工場には、3000トン規模から300トン規模まで5種類の高圧プレス機がある。製品サイズや必要な圧力によって、これらの設備を使い分けている。製造された複合材料を加工するのは第1工場で、ここには切断機、旋盤、マシニングセンター、NCフライスなどの加工用設備が揃う。

第4工場には新型の金属加工機、ワイヤー放電加工機や各種検査・試験装置が恒温室に設置されている。さらに、第4工場は今後、受注量が増して製品の連続生産が必要になった際に稼働を予定している4台の溶湯鍛造設備がある。

溶湯鍛造法とは

アドバンスコンポジットが中心に据える「溶湯鍛造法」は、溶かした金属を、溶けた状態のまま、高い圧力をかけて凝固させる技術である。一般には「高圧鋳造法」と呼ばれるが、同社の技術は鋼の鍛造と同様に、金属組織をより緻密にして高機能化できるため、一般の呼称とは異なる「溶湯鍛造法」としている。

●溶湯鍛造法のこれまで

溶湯鍛造法は20世紀中盤のロシアで開発され、日本では鉄の代替材料として軽量のアルミが盛んに使われるようになった1960〜70年代に、鋳造アルミの高機能化を目的に研究開発が進んだ。金属を鋳型に流し込んだときに内部に残る空洞状の欠陥を「鋳巣」というが、これができると製品の強度が低くなるため、いかに鋳巣をなくすかが課題となっていたからである。鉄は比重が大きいので、溶かして鋳型に流し込むだけで自重によって鋳巣は潰れるが、アルミは比重が小さいため空洞が残りやすく、なかなか健全な材料の提供ができなかったのである。

この点を解決するために生まれたのが、溶けたアルミに圧力をかけながら鋳造し、鋳巣を発生させにくくする溶湯鍛造法だった。これにより健全化は果たせたが、この方法には量産化も低コスト化もしにくいという問題があった。

●溶湯鍛造法とは

これらは製造業に応用するには致命的である。当時はこの点を解決できず、優れた技術でありながら、結局、溶湯鍛造法はあまり使われなくなってしまった。その後、日本では冶金・鋳造分野のニーズは減り、溶湯鍛造法の進化に取り組む研究者も少なくなった。

●溶湯製造法の特徴

現在は金属部品に多様な機能が求められる時代である。より軽く、より強度が高く、より放熱性も高い部品を製造するには、従来の素材の製造方法では限界がある。アドバンスコンポジットはこれらの機能を出せる技術として、改めて高圧鋳造法に注目。さまざまな研究機関や大学と共同研究を進め、高機能化に加えて量産化、低コスト化を実現しうる「溶湯鍛造法」を開発した。

この方法によって製造した金属は、組織がより緻密になることから、疲労強度が高い、耐摩耗性が高い、内部欠陥が少ない、異種素材の複合化が可能、という優れた特徴を備えている。

工業材料2020年8月号

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