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“盟主”ドコモに続く苦闘、5G普及で勢いを取り戻せるか

異例5年目、吉沢社長の挑戦
“盟主”ドコモに続く苦闘、5G普及で勢いを取り戻せるか

ドコモの5G・新サービス・新商品発表会(3月)

NTTドコモの苦闘が続いている。携帯電話の契約数シェアは業界1位だが、売上高や営業利益は3位。政府による携帯料金の引き下げ圧力が沈静化する兆しはなく、ドコモが批判の的にされがちだ。国内の状況が不透明な中、長期の技術戦略を推進する必要もある。就任5年目の吉沢和弘社長には、第5世代通信(5G)の普及を進めつつ、自社の勢いを取り戻す使命が託された。ドコモは利用者の支持を得て、携帯通信のリーダーであり続けられるのか。(斎藤弘和)

シェア1位も収益3位 通信料金に値下げ圧力

「ドコモは3番手なんですよね」。NTTの澤田純社長は、国内携帯通信業界におけるドコモの立ち位置に複雑な思いを示す。

ドコモは、携帯通信サービスのシェアで1位を堅持してきた。だが2020年3月期連結決算は、売上高・営業利益とも業界3位に甘んじた。KDDIとソフトバンクが増収営業増益を確保したのに対し、ドコモは減収営業減益となり、一人負けの様相が際立った。

収益圧迫要因は、端末販売の低迷と通信料金の引き下げだ。ドコモの端末販売関連収入は、前期比2362億円減の6082億円だった。19年10月施行の改正電気通信事業法で端末値引きが制限された影響を受けた。KDDIとソフトバンクは通信料収入が比較的底堅かったものの、ドコモは19年6月に始めた新料金プランで携帯通信料を最大4割引き下げたことが響いた。

ドコモは、業界の代表として、やり玉に挙げられることも多い。総務省は6月、世界の主要6都市におけるシェア1位の事業者のスマートフォン利用料金を比較し、ドコモの料金が国際的には依然「高い水準」だとする調査結果を示した。

この意図は、携帯通信料金引き下げに向けた議論を進めることにある。菅義偉官房長官が18年8月、「携帯料金は4割程度下げる余地はある。(大手事業者による)競争が働いていない」と発言するなど、政府は料金の高止まりを問題視し続けてきた。

そこで総務省は楽天モバイルの携帯電話事業への本格参入を認め、市場競争の促進を狙った。しかし同社は基地局整備の遅れなどの問題が相次ぎ発生。新規顧客の獲得は道半ばで、携帯通信大手3社も楽天モバイルに対抗する形での大幅値下げは行っていない。

こうした状況から、大手3社への風当たりは強まる一方だ。“業界3位”にもかかわらず、批判の矢面に立たされたり範を示すよう求められたりすることが、ドコモの悩みを深いものにしている。

問われる長期視点 技術の海外展開、オープン化難題

ドコモは、NTTグループにおける中核事業会社として、長期視点での施策も求められる。その代表格が、海外の通信事業者などと組んで5Gをはじめとする無線アクセスネットワークのオープン化や高度化を目指す「O―RANアライアンス」の推進だ。

NTTは6月、NECに約645億円を出資し、5G関連技術の研究開発や世界展開を進めると発表した。従来、基地局などの通信インフラでは、中国の華為技術(ファーウェイ)をはじめとする海外勢の存在感が大きい。NTTには、NECとの資本業務提携で、ドコモが進めてきたO―RANを加速する狙いがある。

ただドコモは、オープン化で苦汁をなめた過去があり、O―RANを成功に導けるかは未知数だ。ドコモはかつて、韓国サムスン電子などと共同で、サービス開発の自由度が高いといったオープン性を売りにした基本ソフト(OS)「タイゼン」の開発や普及を目指していた。13年度にドコモがタイゼン搭載スマホを発表する予定だったが、他OSとの力関係などから、発売に至らなかった。

一般的に多数の企業間での提携は、意思決定が難航して事業のスピード感も損なわれる懸念がある。ドコモはタイゼンの轍(てつ)を踏まないためにも、柔軟性と指導力に磨きをかける必要がある。

ドコモは国内外で課題が山積する中、吉沢和弘社長の続投が決まった。

ドコモ社長は4年周期で交代するのが慣例だが、吉沢氏は5年目で「異例」(総務省幹部)とも言える。関係者の話では、3月に商用サービスを始めた5Gを軌道に乗せつつ、ドコモの勢いを取り戻してほしいとの期待が吉沢氏にかけられているようだ。名実ともに業界の盟主としての輝きを取り戻せるか、吉沢社長の手腕が問われている。

インタビュー/NTTドコモ社長・吉沢和弘氏 通信速度・エリア―価値提供

NTTドコモ社長・吉沢和弘氏

―ドコモ社長として5年目に入りました。

「あまり意識はしていない。私の前(の社長)が3人続けて4年だったこともあり、もともと4年くらいかなとは考えていた。今回の私の継続は、5Gの立ち上げをしっかりやったところで次の人に、という事と思う」

―20年3月期連結決算の売上高や営業利益は業界3位でした。

「大きな料金の引き下げは今までもやっており、その時は営業利益も収入もガクッと下がった。(19年6月の値下げの)結果として、他の2社に比べて利益が下がるのは当然というつもりでいた」

―携帯通信料金の引き下げ圧力が強まるリスクは感じますか。

「ここに来て頻繁に(携帯料金のあり方などに関する有識者の)研究会が開かれている。内外価格差のデータは、(国際的にはドコモが)定価として高いことは事実だから、どうするかは考える。ただ料金には、付随する価値がある。通信速度やエリアの広さ、アフターフォローといった価値に納得して使って頂くのが本来。他との比較で高い、というだけではないと思う」

―法人向け5G事業における優位性は。

「プレサービスなどで営業員は企業への売り込み方のノウハウがついてきた。顔認証をはじめ、具体的なソリューションができて顧客も加入している」

―O―RANの現状評価や課題認識は。

「基本的なアライアンスの目的は皆さんにしっかり同意頂いている。(技術面などでの具体的な)実績も出てきており、仲間を増やすことで確実なものにしていく。私も5G関連の会議でO―RANのPRをしている」

―決済分野などで提携しているメルカリとの今後の関係は。

「(スマホを活用した)決済のところでは日本一にぜひなりたい。ドコモショップでも(メルカリのサービスの使い方などを説明する)『メルカリ教室』をやっており、今後さらに拡大したい。こうした協業は、資本提携をしないとできないわけではない」

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