右肩上がりだったリチウム電池の生産量、「上得意」自動車の失速でどうなる?
ノーベル化学賞受賞で注目
昨年、日本人28人目となるノーベル賞(化学賞)を吉野彰さんが受賞した。リチウムイオン二次電池(蓄電池)の発明・実用化により社会の発展に寄与したことが受賞理由だった。リチウムイオン蓄電池は、他の二次電池(ニッケル水素電池、ニカド電池、鉛電池)に比べて、次のような優位点をもっている。
①エネルギー密度が高い(=小型で軽量のバッテリーを作ることが可能)
②電圧・出力が高い
③寿命が長い
これらの特性により、リチウムイオン蓄電池の実用化は、携帯電話、ノートパソコン、スマホなどIT機器の発展につながった。リチウムイオン蓄電池の利用は、IT機器に留まらず、今では電気自動車などの「エコカー」に幅広く活用されている。
右肩上がりの生産増
経済産業省の生産動態統計調査では、エコカー向け需要の拡大を見越して、2012年からリチウムイオン蓄電池を①車載用(注1)と②その他用に分けてとれるようにした。
(注1)生産動態統計調査での車載用は自動車用のものだけで、バイク用・自転車用などはその他に入る。
また、リチウムイオン蓄電池の生産増加を踏まえ、鉱工業指数でも、2015年基準から指数構成品目として採用した。そこで、その後のリチウムイオン蓄電池の日本での生産の動きがどうなっているか、鉱工業指数や生産動態統計調査などを利用してみていくことにする。
まず、リチウムイオン蓄電池の生産の推移を数量ベースでみてみる。上は鉱工業指数のグラフだが、リチウムイオン蓄電池の生産は、鉱工業総合と比べると、2018年第1四半期までかなり勢いのある上昇を続けてきた。
ただ、同年第2四半期以降、2019年第1四半期まで低下が続き、2015年を100とする今基準では、鉱工業総合と同レベルの水準まで低下した。その後、持ち直しの動きがみられたものの、直近では新型コロナウイルス感染症の影響で急落しており、今後どう推移するかが注目される。
生産増の牽引役は
このリチウムイオン蓄電池の上昇が続いた要因を探るため、生産動態統計調査のデータをみてみる。生産動態統計調査でリチウムイオン蓄電池の販売金額の推移を見たのが上のグラフである。車載用とその他用に分けてみると、車載用が2018年まで上昇傾向にある一方、その他用は低下傾向がみられる。リチウムイオン蓄電池の生産の上昇は、主に車載用がけん引したと考えられる。
上は金額ベースだが、数量ベース(Ah)でみても、車載用がその他用より勢いよく伸びている傾向は変わらない。2019年は、米国向け輸出が急減したため、車載用の販売額も減少したが、その後復調の動きがみられた。ただ、最近は新型コロナウイルス感染症の影響により、自動車の販売が世界的に急減していることを考えると、リチウムイオン蓄電池の生産も、当面は厳しい状況が続くことが想定される。
なお、2019年のリチウムイオン蓄電池の販売金額は、4,098億円、うち車載用が2,824億円、その他用が1,274億円となっており、かなり大きな市場となっている。
海外需要に支えられ
この車載用が勢いよく伸びた背景を探るため、車載用リチウムイオン蓄電池の販売金額を、国内販売と輸出とに分けてみる。
国内販売(注2)は、2012年から2017年にかけて一進一退ながらほぼ横ばい傾向にある反面、輸出は2012年から2017年にかけて右肩上がりで拡大を続けており、リチウムイオン蓄電池の販売金額の増加は車載用が中心だったが、さらにみると、海外の需要に支えられたことがわかる。ただ、2018年以降、輸出も低下に転じており、今後の動向が気になるところだ。
(注2)国内販売は、生産動態統計調査の販売金額から貿易統計の輸出金額を差し引いたもの。過半数が米国向け
次に、輸出の仕向先をみてみる。直近2019年のリチウムイオン蓄電池輸出(注3)の輸出先は、米国向けが51%と半数以上が米国で占めている。次いで、中国(15%)、ドイツ(6%)となっており、電気自動車の生産拠点が集中する国への輸出額が大きいことがわかる。
(注3)貿易統計のベースとなるHSコードでは、リチウムイオン畜電池が用途別に分かれていない。過半数を占める米国向けとそれ以外に分けて推移をみると、米国向けが2013年から急激に増加し2018年のピークまで増加傾向にあった。しかし、2019年は減少傾向に転じている。この背景には、比較的安価な中国製の台頭などが考えられる。
新型コロナの影響あるものの
以上の分析から、リチウムイオン蓄電池の生産上昇が続いてきた背景には、米国を中心とした車載用リチウムイオン蓄電池の輸出の急増があることがわかった。近年、EVへの取組みが先行している米国などでの需要が急増したことが影響したと考えられる。ただ、2019年に入り、リチウムイオン蓄電池の生産は低下しており、今後生産がどのように回復するかが注目される。
日本でも、政府は、2030年に電気自動車等(EV+PHV)の新車登録台数に占める比率(EV化率)を2~3割に高めるとの目標を設定している。また、英国政府は、今年に入って、ハイブリッド車を含めたガソリン車・ディーゼル車の販売禁止期間を2035年に前倒しすることを表明するなど、EV化は全世界的な趨勢となっている。
直近では、新型コロナウイルス感染症の影響により自動車販売も世界的に低迷しているため、リチウムイオン蓄電池の生産も、当面は低調に推移する可能性があるものの、先進諸国のEV化率はまだまだ低いことから、長期的には、リチウムイオン蓄電池の生産も増加していくことが期待される。
鉱工業指数や生産動態統計では、このように鉱工業品の生産、出荷などの動向をみることができる。ぜひ気になる品目をご覧頂きたい。